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あの入院シーンもオマージュだった? 極私的・HiGH&LOWと観たいアジア映画

――生コンを飲まされるコブラの画像が公開されたとき、その衝撃と共に話題になったのは、このシーンが韓国映画『新しき世界』のワンシーンに似ていることだった。同作をはじめ、アジア映画を愛して20年超のライター・西森路代氏が、ハイローと一緒に観たい“極私的”アジア映画を語る。

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衝撃の生コンシーンもアジア映画のオマージュか?(You Tube「HiGH&LOW THE MOVIE 3 / FINAL MISSION」 予告編 60秒verより)

『HiGH&LOW THE MOVIE 3 FINAL MISSION』(以下、『FINAL MISSION』)の公開前、コブラが吊るされ、“生コン”を飲まされている場面写真が公開され、多くの人の度肝を抜いた。同時に、この場面が韓国映画『新しき世界』(2014/以下、すべて日本公開年)のワンシーンを思わせるというのも話題になった。これをきっかけに、同作を観たというハイローファンもいるのではないだろうか。

 かく言う私は公開当時、『新しき世界』にドハマりし、ツイッターのスクリーンネームで「新しき西森路代」と名乗っていた。当時は同じように「新しき」を名乗るファンが何人もいたのだ。ここにきて、そんな自分にとっての特別な映画と、現在ドハマりしている『HiGH&LOW』がつながったのはうれしかった。同時に、今まで20年以上も香港映画を観てきたこと、アジア各国のアウトローを描いたアクション作品が好きだった自分をさらに肯定できる気がして、胸が熱くなったものだ。私のほかにも、形は違えどそんな人はいるのではないだろうか。

『新しき世界』で“セメント”のシーンが出てくるのは冒頭だ。組織の中に“警察のイヌ”がいると判明し、疑惑をかけられた構成員がセメントを飲まされ、その後、ドラム缶に入れられたまま海に放り込まれて、その構成員は映画から退場する。ちなみに、『新しき世界』のファンは「生コン」ではなく「セメント」と言う。『HiGH&LOW』ファンの間では「生コン」という名称が定着したようなので、以下からはそう書く(『FINAL MISSION』の劇中でも「できたぞ、セメント」というセリフがあるので、やはりあれは「セメント」なのではないかと思いつつ……)。

『FINAL MISSION』で“生コン”を飲まされるのは、末端のキャラクターではなく、「全員主役」といわれる同シリーズの中でも主役中の主役であるコブラである。「生コンなんか飲んだら、食道や内臓の粘膜やられて、いくらコブラでも動けないよ!」と思ったら、そこはうまいこと展開してくれていてほっとした。

 さて、『HiGH&LOW』シリーズを見ていると、『新しき世界』以外にも「この映画へのオマージュなんだろうか」と思う作品がいくつも思い浮かぶ。本稿では、そうした作品をはじめ、『HiGH&LOW』とあわせて観ると楽しめるアジア映画を、個人的な視点で紹介していきたい。

琥珀&九十九の入院シーンもアジア映画へのオマージュか?

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『インファナル・アフェア』

 そもそも、『新しき世界』もまた、ある映画へのオマージュだといっても過言ではない。その映画とは、香港で制作された『インファナル・アフェア』(03〜)シリーズだ。アメリカでも『ディパーテッド』(07)というタイトルでリメイクされ、日本でも、西島秀俊&香川照之のコンビで『ダブルフェイス』(17年/TBS)というタイトルでドラマ化されたため、知名度は高いだろう。

『インファナル・アフェア』は、警察官が黒社会に潜入し、また黒社会の若い構成員が警察学校を卒業してそのまま警察官となって警察組織に潜入しているという二重の潜入捜査ものである。こうした斬新な設定は、その後の作品に影響を与えた。『新しき世界』もそのひとつである。

『インファナル・アフェア』の原題は『無間道』。これは「一度足を踏み入れたら戻ることのできない無限に続く地獄」を意味しているという。とすると、それにインスパイアを受けているだろう『新しき世界』のタイトルは、「無限に続く地獄への新しき世界が開けてしまった」という解釈もできる。『インファナル・アフェア』のアンディ・ラウ演じるラウ(警察に潜入したヤクザ)と、『新しき世界』のイ・ジョンジェ演じるジャソン(ヤクザに潜入した警察官)は、両物語の最後に“同じ景色”を見るのだ(ひとつの到達点にたどり着くとでも言えばいいだろうか。両作品の最後の最後のネタバレになるため、これくらいの表現に留めておきたい)。

 タランティーノが、チョウ・ユンファ主演の香港映画『友は風の彼方に』(91)からインスパイアされて『レザボア・ドッグス』(93)を作ったというのは、ファンの間では有名な話である。『新しき世界』もまた、『インファナル・アフェア』を見て、シーンを取り入れたり、物語を深く解釈して、ときにはキャラクターの立ち位置を反転させたり、ストーリーのどんでん返しの技を駆使したりしながら、新たなものとして作り出した作品であると感じるのだ。

 少し横道にそれるが、『HiGH&LOW THE MOVIE』には、『友は風の彼方に』を思い起こさせるシーンもある。『友は風の彼方に』は、チョウ・ユンファ演じる潜入捜査官が、ダニー・リー演じる裏組織の人間に、本来ならば感じてはいけない友情を抱いてしまうことが物語の肝になっているのだが、この二人が強盗決行前夜に隣り合ったベッドで横になりながら、語り合うシーンがある。このシチュエーションは、九十九と琥珀が共に入院して隣り合って寝ている回想シーンに重なって見える(カーテンは隔ててはいるが)。しかも、右側に寝ているチョウ・ユンファ演じる潜入捜査官は過去に大切な仲間を亡くした経験があり、そのことで苦しんでいる。そして今、絆を深めつつあるのが左で寝ているダニー・リー演じる裏組織の人間なのだ。『HiGH&LOW』では、回想シーンで右側に寝ていた琥珀が、現在は龍也という存在を失って苦しみ、左にいた九十九が相棒となりつつあるという点でも、このシーンは重なっているのだ。そもそも、『友は風の彼方に』は、その後の潜入捜査ものや男同士の絆を描いた作品のルーツになる映画でもあるから、『HiGH&LOW』に影響を与えていることは考えられなくもない。

悪人はゴルフクラブを握り打ってはいけない場所で打つ

 話を戻そう。『インファナル・アフェア』は、設定以外にもさまざまな面で後続の作品に影響を与えている。『インファナル・アフェア』には、潜入捜査官と刑事が屋上で落ち合うシーンがあるが、本作が公開されて以降、ドラマや映画で男二人が密会するシーンでは屋上が使われることが格段に増えた気がする。また、屋上からアンディ・ラウ演じるラウ刑事がゴルフの打ちっぱなしをするシーンは、まさに『FINAL MISSION』でもオマージュされている。

 考えてみれば、屋上から市街地に向かってゴルフの打ちっぱなしをしたら、地上を歩く人間に当たって死者が出るような危険な行為のはずだ。したがってこれは悪のメタファーでもある。屋上でゴルフをするような人は、物語の中では悪人なのだ。『FINAL MISSION』でも、屋上でゴルフに興じていたのは、無名街の秘密を隠蔽しようとする汚職にまみれた警察官僚や政治家、九龍の面々であった。

 さらに、『新しき世界』でも、ゴルフクラブを握るのは悪人だった。同作では屋上ではなく、建設途中のビルのワンフロアから、空中へとボールを打ちっぱなす。打っているのは、黒社会の組織の大物であり、非情な手段を使ってでも権力を握ろうとしている悪=イ・ジュング(パク・ソンウン)であった。悪とわかっていても、ジュングがゴルフクラブを持つ姿はなんともゾクゾクするものがある。彼がボールを打つと、周りの太鼓持ちの構成員から「ナイスショット!」と媚び媚びの声がかかるのだが、『FINAL MISSION』でも、岸谷五朗演じる善信にこの媚びた「ナイスショット!」の声がかかる。ここでジュングと善信(そもそもこんな悪人が「善を信じる」という名前なのが皮肉だが……)がつながるのである。やはり『インファナル・アフェア』は『新しき世界』に影響を与え、『新しき世界』は『HiGH&LOW』に影響を与えているのである。

「立ち上がる人々」を描くジャッキーのダーク作品

『FINAL MISSION』では、SWORDが窮地に陥ってどん底の状態になり、そこからコブラたちが這い上がる姿が描かれている。劇中では、コブラが生コンを飲まされている姿とシンクロするように、SWORDの面々が九龍の手によって瀕死の状態にさらされている場面が映る。鬼邪高校やWhite Rascalsのクラブ「heaven」、達磨一家の拠点は、火を放たれ人々は死んだように横たわっている。山王街では、天井の骨組みから人々が縄で縛られ吊るされていた。

 このシーンは、SWORDが九龍によって最悪の状態に追い込まれたことを示す重要な場面である。「立ち上がるにも限度がある」というロッキーのセリフがこの状況を表しているが、ここまでのことをされたからこそ、コブラやSWORDの面々に再び立ち上がってほしいと観客に強く思わせることのできるシーンでもあるし、どん底のあとにこそカタルシスがある。そんなシーンを見て思い起こすのが、ジャッキー・チェン主演の『香港国際警察/NEW POLICE STORY』(05)だ。

 本作は、ジャッキー・チェン映画の中でも、ダークな部類に入る作品である。ジャッキー演じる香港警察特捜班のチャン警部は、警察を混乱させて楽しむ凶悪な愉快犯たちの標的となる。チャン刑事を困らせるために、彼の部下たちは天井から吊るされる。両者がカンフーで手合わせをしてチャン警部がしくじるたびに、吊るされた部下たちはつながれた縄を切られ、その下にあるフェンスに激突して命を失ってしまうという、非常にやるせないシーンがあった。チャン警部はこの悲惨な経験から一時は自暴自棄にはなるが、そこから立ち上がるのだ。コブラたちのように。

『HiGH&LOW』がジャッキーの映画に影響を受けたのかどうかは、はっきりとはわからないが、一緒に観ると楽しめる一作としてこの『香港国際警察/NEW POLICE STORY』を推薦したい。『END OF SKY』と『FINAL MISSION』で監督を務めた中茎強氏も、インタビューで「『ロッキー』(1977)とか『グラディエーター』(00)のような、圧倒的に弱い立場のものが立ち上がっていきつつも、一番大事なものは身近な人たちだろっていう作品が好きだったんです」と語っている(東京ニュース通信社「CINEMA STARS vol.1」より)。立ち上がる人々を描いた作品は、『HiGH&LOW』を深掘りするのにふさわしいだろう。

 そもそも『HiGH&LOW』は当初から、アジア映画の影響の強さがよく指摘されていた。ドラマシリーズから監督を務めてきた久保茂昭監督は、韓国映画、香港映画好きを公言している。前出の「CINEMA STARS」のインタビューでも、ジャッキー・チェン、ドニー・イェン、ジェット・リーの名前がときおり挙がっていた。

 また、ロッキー役の黒木啓司や琥珀役のAKIRAらが所属するEXILE THE SECONDのドキュメンタリーで、楽屋に『新しき世界』ほか多くの韓国映画のDVDが積まれているのが、ファンの間で話題になったこともある。ノボル役を演じる町田啓太はインタビューで『友へ チング』『アジョシ』『悪魔を見た』『猟奇的な彼女』『哭声 コクソン』『お嬢さん』など、多くの韓国映画を観ていることを明かしている(ウェブマガジン「FILMAGA」17年8月15日掲載)。“達磨ベイビーズ”の雷太を演じるBOYS AND MENの田中俊介も、ブログでソル・ギョング作品や韓国のアクション映画監督、リュ・スンワンの『ベテラン』や『生き残るための3つの取引』が好きだと語っていた。私自身『HiGH&LOW』出演者への取材の中で、今年の春に公開された『アシュラ』や『哭声/コクソン』の名前を聞いたこともある。

 若手俳優、それも『HiGH&LOW』に出演するような俳優たちが憧れる世界観の映画は、韓国に多いということなのかもしれない。韓国映画では、男同士が緊迫した心理戦を繰り広げたり、アクションで魅せたり、どん底から立ち上がったりする作品が次から次へと生まれているのだから、当然と言えば当然である。

〝韓国のガンちゃん〟が〝達磨(?)サーフィン〟する快作

 今回の『FINAL MISSION』では、ほかにも韓国映画を思い起こす部分があった。『FINAL MISSION』は、腐敗した国家権力と九龍という組織にSWORDの面々が立ち向かう作品である。日本の昨今のメジャー作品では、権力と対峙する市民が描かれることはあまり多くないが、韓国には数多く見られる。特に近年では、イ・ビョンホン、チョ・スンウ主演の『インサイダーズ/内部者たち』(16)がこうしたテーマで大ヒットした。

 同作と『HiGH&LOW』にもまた、似たシーンが存在する。『END OF SKY』では、九龍の黒崎、カジノ推進法案担当大臣の篠原、警察官僚の波多野という3人が料亭で密談をしているシーンがあった。『インサイダーズ/内部者たち』では、腐敗した自動車会社社長や新聞記者の面々が料亭で密会するシーンがある。そこで行われるのは性接待であり、あの有名な“ちんゴル”(ビールなどを注いだコップの上に、強いお酒を入れたショットグラスを乗せ、男性器をゴルフクラブに見立ててショットしてショットグラスを下に落とし、混ぜて飲むことを一部のネットスラングでそう呼ぶようになった)が行われているのであるから、インパクトはデカい。

 だが『HiGH&LOW』も負けてはいない。『インサイダーズ』では隠蔽された事実をなんとかつきとめ、イ・ビョンホンがたくさんの報道陣に向けて告発するシーンがあるが、『FINAL MISSION』の告発のシーンは、政府主導の爆破セレモニーとの合わせ技であるから、こちらのインパクトもでかい。こうした荒唐無稽な発想こそが、『HiGH&LOW』を『HiGH&LOW』たらしめている場面なのではないかとも思える。今回の『FINAL MISSION』であれば、達磨一家の花火もそうしたシーンである。

 達磨一家は、『HiGH&LOW THE MOVIE』では日向がアメ車に箱乗りして観る者を面食らわせたし、『END OF SKY』では達磨サーフィンを披露。そして『FINAL MISSION』ではまた原点の箱乗りに戻ったかと思いきや、今度は車体自体が斜めになった状態で日向は登場した。

 達磨をはじめ、SWORDの面々がバイクや車で一堂に会するシーンは、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)を思わせた。『HiGH&LOW』の久保監督が、『マッドマックス』(79)『マッドマックス2』(81)の影響を受けて作られたと言われている『爆裂都市 BURST CITY』(82)のファンを公言しているのも納得がいく。

『爆裂都市 BURST CITY』は、ザ・ロッカーズやザ・ルースターズ、スターリンなど、当時の若くてギラギラしていたバンドのメンバーたちが主演し、退廃的な架空の街にそんな若者たちが集まっている。映画に流れるアナーキーな部分に、久保監督は惹かれているのだというが、確かに『HiGH&LOW』も架空の都市が舞台で、若くてギラギラした今の俳優たちが出演し、ときにライブのシーンも挟み込まれる。

 架空の荒廃した街、ギラギラした男たち――アジア映画にも、そうした作品はもちろん存在する。チョン・ウソン、イ・ビョンホン、ソン・ガンホというビッグスターが共演した『グッド・バッド・ウィアード』(09)も、『HiGH&LOW』とあわせて観てほしい映画のひとつだ。

 本作の舞台は1930年の満州ではあるが、さまざまな民族がまじりあった無政府的な街が描かれているし、また『マッドマックス』のように、砂漠の中を進む列車やジープや馬などが出てくる。韓国のガンちゃんことソン・ガンホが、達磨サーフィンよろしく、ジープに縄でつかまって滑走する姿も見られるのだ。砂漠の中に存在する荒廃した街は、リトル・アジアのようでもあり、無名街のようでもある。日本軍の指揮官として、『HiGH&LOW THE MOVIE』で張を演じた白竜も出演している。

死んだ人がケロッと帰ってくる!『古惑仔』は香港版「ハイロー」だ

 最後に、本当に極私的な観点ではあるが、『HiGH&LOW』を観ると思い出す香港映画を紹介したい。それは、『インファナル・アフェア』シリーズを監督したアンドリュー・ラウの出世作『欲望の街・古惑仔(コワクチャイ)』(97〜)シリーズである。

 本作は、香港の団地出身のチンピラたちを描く青春群像映画であり、主演は歌手としても活躍するイーキン・チェンや、ダンスグループ「風火海(フォンフォーホイ)」の3人であった。彼らの前に立ちはだかる非道で強烈な悪役を、『インファナル・アフェア』で刑事を演じたアンソニー・ウォンなど、当時の脂の乗った中堅俳優が演じている。彼の上にはさらに組織の上位の面々も存在しており、いわば九龍の幹部会のようなものも開かれる。この悪役中堅俳優の演技が過剰なうえに、やることなすこと極悪非道なため、私はこのシリーズを観てから3年、いや5年くらいは、アンソニー・ウォンのことが嫌いで仕方なかった(今ではファンだが)。この人はほかにも、人肉を饅頭にして売っていた犯人の実話映画『八仙飯店之人肉饅頭』(93/日本では04年以降に映画祭などでのみ公開)や、架空のエボラウイルスに感染した男が人に感染させまくる映画『エボラシンドローム 悪魔の殺人ウィルス』(97)などに出ていたのだから仕方ない。そんな姿と、『HiGH&LOW』での髙嶋政宏(源龍海役)や、岸谷(善信役)の怪演が重なった。

 さて、この『古惑仔』シリーズは6作まで作られたほか、女性キャラクターたちを描いた『洪興十三妹』(日本では99年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映)や、悪役のン・ジャンユー主演の『旺角 Fit人』(96年香港公開/日本未公開)、同じく悪役のアンソニー・ウォンが主演の『古惑仔激情篇洪興大飛哥』(99年香港公開/日本未公開)、そしてニコラス・ツェーやサム・リー、ダニエル・ウーといった香港の新しいスターたちを生んだ『硝子のジェネレーション 香港少年激闘団』(00)など、次々とスピンオフ作品が作られた。これらの作品は、『正外伝』と『外伝』とに分けられている。つまり、ひとつの『古惑仔』という世界から、無数の作品が生まれたのである。これは登場人物のキャラクターがそれぞれ魅力的だったことを意味している。そしてその中でも、悪役が特に魅力的だったのである。

 こうした『古惑仔』シリーズの試みは、『HiGH&LOW』プロジェクトと重なって見える。正規のシリーズがあり、『HiGH&LOW THE RED RAIN』のようなスピンオフ映画があり、本編では悪役のMIGHTY WARRIORSを主役とした『HiGH & LOW THE MIGHTY WARRIORS』のようなスピンオフが作られていることとも重なる。今となっては、テレビシリーズもスピンアウト作品に思えるほどだ。まだ脚本家・平沼紀久とキャストの口約束の段階ではあるが、「鬼邪高校のスピンオフを作る」というやりとりもあった。前述の通り『古惑仔』シリーズには、女性だけで描かれるスピンオフもあったし、新人俳優だけで構成される作品も存在したわけで、こうした可能性は、『HiGH&LOW』に「も無限に広がっていると思っていいだろう。

 なお、何度も本稿に登場したアンドリュー・ラウについていえば、実は琥珀を演じているAKIRAは、『レジェンド・オブ・フィスト/怒りの鉄拳』(11)で日本軍の暗殺隊長・佐々木役で彼の監督作品に出演済みである。この作品で、AKIRAは主演でアクション監督を務めるドニー・イェンにアクション指導もされている。もう一人のアクション監督は、『HiGH&LOW』シリーズの大内貴仁と関係の深い谷垣健治だった。本稿を書いていると、『HiGH&LOW』と香港映画、そしてアンドリュー・ラウの結びつきの深さを感じずにはいられない。

 アンドリュー・ラウは、アラン・マックやフェリックス・チョンと共同作業していることが多いのも、チームで制作する『HiGH&LOW』と重なる。また、チンピラや黒社会の世界を描きながら、どこかコミカルな部分や、突っ込める部分もたくさんあるのが初期アンドリュー・ラウの強みでもあった。

 さて、前述の『古惑仔』シリーズでは、平気で死んだはずの人が別のキャラでケロっと帰ってきたりするのがまた、作品の面白さを盛り上げていた。死んだ人がケロッと帰ってくるというのは、日本の『仁義なき戦い』や香港の『男たちの挽歌』などでも使われる、ヤクザモノのお約束なのである。しかしそれは、作品自体にエネルギーや勢いがあり、「とにかく次を作らないといけない」という意気込みの表れなのではないだろうか。だから『HiGH&LOW』でも、突っ込まれまくりな部分が今後どんどん発生していったとしても、それは作品を盛り上げるスパイスのひとつであって、なんの問題もないのではないかと思うのだ。アジア映画を愛する者としては、それくらいの気持ちで『HiGH&LOW』の次なる展開を待ち望みたい。

西森路代(にしもり・みちよ)
1972年、愛媛県生まれ。ライター。アジア系エンタメや女性と消費に関するテーマなどを執筆。著書に『Kポップがアジアを制覇する』(原書房)、『女子会2・0』(共著/NHK出版)など。

最終更新:2017/12/09 20:00
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