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日刊サイゾー トップ > カルチャー > 本・マンガ  > 『私だってするんです』小谷真倫の探求

女と自由との揺らぎ──『私だってするんです』小谷真倫の探求「自分の凡庸に負けたんだ……」

 小谷真倫。福島県生まれ。性別は女。職業はマンガ家。

 商業誌をフィールドに、選ばれた者しか到達することのできないプロのマンガ家の階段。その一段目を踏んだのは2007年。講談社の新人賞「第23回講談社MANGA OPEN」にて奨励賞を受賞してからである。

 そこから、アシスタント経験などを経て初の連載作は09年に「イブニング」(講談社)15号から不定期連載された『害虫女子コスモポリタン』。これは、ゴキブリや蚊、セミなど身近な昆虫を美女に擬人化したショートショートのギャグマンガ。タイトルは、途中から『害虫女子コスモポリタン ビッチーズ』と変わり、それぞれのタイトルで1冊ずつ単行本になった。後者の単行本の発行日は、13年9月20日。それから4年あまり。小谷の最新刊『私だってするんです』(新潮社)は、前作にはなかった「共感」を呼んでいる。

 作品が連載されているのは、Web上のマンガサイト『くらげバンチ』。そこは、Web媒体の優位性を生かして、次々と実験作が投入される場。いわば、多くのマンガ家が「プロになる」第一歩、あるいは復活の一歩を踏み出す戦場である。Webの時代となり、受け手の反応は直接的に手に取ることができる。TwitterやFacebookといったSNSを中心に溢れかえる、文字通りの忌憚のない意見。おおよそ、現代的な作り手は、それに一喜一憂しながら、さらに高みを目指している。目指しているとはいえ、時にそれらの意見にへこむこともある。

 さらに『くらげバンチ』には、その一歩先がある。それが、作品のページごとにあるコメント欄。Facebookなら大抵は実名だから、あまりにも辛辣なことを書こうとすれば抑制が働くものだ。本名であることが少ないTwitterでも同様。普段、平和に会話を交わしている相手。中には、現実世界でつながりがある人がいる場合も多々ある。だから、やっぱり抑制が働くもの。ところが、サイトのコメント欄となるとワケが違う。なぜなら、完全に匿名性。表示されるのは、作者と作品に対する称賛であったり、罵倒であったり。書き逃げができる場だから、SNSに比べて辛辣な意見も投げつけられやすい。

 その中にあって『私だってするんです』に寄せられるのは、読者からの「共感」。単行本のオビに記された宣伝文句を使えば「男性も必読!!!!!! 女性読者から共感の嵐」という具合。

 そんな共感を呼ぶ作品。描かれるテーマは「女性のオナニー」。女性のオナニーのやり方や、使っている「オカズ」が、各回ごとにテーマとして設定されている。

 それは、こんな物語だ。

 女子高生・慰舞林檎は、放課後の教室でオナニーを楽しんでいたところを、男子に見つかってしまう。それも、オカズに使っていた学年イチの優等生である江田創世(エデン)本人に。

 茫然自失とするしかない林檎であったが、江田は予想外のことを言い出す。「僕の事が好きなの?」と尋ね「いいよ! 付き合っても」と。ただ、交際には条件があった。江田は、さまざまな人が使っている「オカズ」を調べた「オカズ大辞典」を制作していた。それを参考に新たな快感を開拓することが、江田のライフワークだったのである。でも、優等生の彼をしても、困難なことがあった。それは、女子がどのような「オカズ」を用いて、どんなオナニーをしているのかということ。

「俺と一緒に『オカズ大辞典』を完成させてくれないか」

「……これが完成したら僕の事オカズどころか主食にしていい……」

 文武両道かつイケメンの優等生かと思いきや、振り切った変態。でも、そのギャップも萌え要素。こうして、女子のオカズを調べることを決意する林檎だったが、そのハードルは高かった。女子は、セックスのことは話すことができても、自分のオナニーになると途端に口を閉ざすのである。

 もしかして女子にとってのセックスとオナニーって……
 同じ性的なことでも……
 マツジュンと出川○朗に迫られるくらい……
 格差がある……

 そんなギャップの存在を描きながらも、林檎は、物語の狂言回しとして、電マやセクスティング、あるいは、ボーイズラブマンガなど、未知の方法やオカズを切り拓いていくのである。

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