俺たちもこれが最後の祭りじゃ!! サイゾー的ハイロー特集最後の花火『FINAL MISSION』徹底討論対談!
※本記事は映画『HiGH&LOW THE MOVIE3 / FINAL MISSION』のネタバレを含みます。
たくさんの夢をありがとう、HIROさん…
映画『HiGH&LOW THE MOVIE』に脳を焼かれてから1年数カ月。夏の『END OF SKY』公開時にも開催したハイロー対談@サイゾーが、再び帰ってきた。毎度おなじみ映画ライターの加藤よしきさんとヤンキーマンガとEXILE史学に詳しいライター藤谷千明さんが、『FINAL MISSION』について徹底討論! これが俺たちの最後の祭りじゃ!!(なお、今後新作が公開された場合にはこれが最後とは限らない場合がございます/今回も同席している編集者は重度のLDHオタクです)
生コンはサビ! 音楽組織ならではの大胆な構成
藤谷:前回の対談「ごめんなさい」から始まったわけですけど、今回は「ありがとうございます」から始めたい。変に引き伸ばしを図るわけでもなく『HiGH&LOW』は『HiGH&LOW』として畳んでくれた。ドラマ版から脈々と続いていたSWORD地区のカジノ問題に一段落つきました。そしてやっぱり今回も冒頭から度肝を抜いてくる。これぞハイローでした。だって、予告で我々に衝撃を与えた生コン祭りがまさか冒頭に来るとは思わなかった。そして中盤でももう一回同じシーンが流れる。つまり、このシーンが「サビ」なんですよ! 三代目J Soul Brothersでいうところの「Welcome to TOKYO」【1】みたいな頭サビで始まる展開です。
【1】16年11月リリースの、三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE通算20枚目のシングル。名曲。トキオ…トキオ…トキオ…
加藤:確か『新しき世界』も冒頭に生コン(セメント)シーンがありましたね。
藤谷:でもあれは「サビ」ではなくて、死体が浮かび上がってこないように、海に沈めるための処置としてのセメント描写をもって「この韓国ノアールはエグイやり方で死体を隠蔽するヤクザが出てきますよ」という宣言をするイントロでした。『HiGH&LOW THE MOVIE 3 / FINAL MISSION』(以下ザム3)の場合は、これをサビに持ってきた。音楽組織であるLDHならではの大胆な構成なんですよ!
加藤:大胆な構成というか、今回、シリーズの中で一番構成がめちゃくちゃですね。とくに時系列はもう本当にわからない。どのタイミングでコブラが姿を消して、どこで琥珀さんが助けに来て、どこでSWORDの街が空襲受けたかのように停電になったのでしょうか?
編集部:SWORD地区がいつ燃やされてるのかも分からなかったです。善信の「逃げねえよ」の後なのか、彼が「いや、もう始まってるか」って言うからには『HiGH&LOW THE MOVIE2 / END OF SKY』(以下ザム2)のクライマックスの裏で同時進行で起こってることなのか。おそらく映像の順番的には後者ですかね。その間にダンさんたちは山王街で九龍と戦い、尾沢は骨折した。
加藤:コブラたちは「逃げねえよ」って言われた後、ガレージみたいな謎の空間で山王会議をしていました。本来なら多分、あの会議の前にSWORD地区が九龍の襲来によってブチ壊されて、危機に瀕しているはずなんですよ。人が吊るされたりとか、派手にやられちゃってる。だからゲリラ戦で行こう、という順序のはずです。でも、そこが描かれてないから伝わらないんですよ。ほかのチームも同様です。クラブheaven、鬼邪高、達磨の拠点も燃やされて、そこにロッキー、村山、日向は「間に合わなかった」みたいな感じで来てる。それに達磨の拠点では、達磨ベイビーズが倒れていて、あれがまた時系列の謎を加速させてます。
藤谷:ザム2のクライマックス、達磨一家登場シーンで大きく啖呵切ってたのに! なにか事情があって先に帰ったのか……ナ? 村山は鬼邪高が燃やされて膝から崩れ落ちてるけど、黒白堂駅帰りだとしたら、古屋と関ちゃんは一緒にいないし。SWORDのみんなの鬼気迫る勢い、特にコブラの、ドラマ版からすると圧倒的成長を遂げた演技力に圧倒されて一瞬納得しそうになるんですけど、よく考えたら「……アレ?」ってなる部分は今回多かったですね。
加藤:冷静になるとおかしいんです。今に始まったことじゃないけど、ザム3はそういう部分が特に多い気がする。で、山王は「じゃあゲリラ戦だ」って戦うけど九龍の圧倒的暴力に勝てず、進退窮まったコブラがカッとなって、単身でツッコんでボコボコにされて拉致される。そして生コンを飲まされそうになったところに琥珀さんが現れて。
藤谷:琥珀さんたちはその前に広斗をかばって負傷した西郷の隠れ家に行くというくだりがありました。ここはたぶんSWORDの襲撃と同時進行のはず。この時点でかなり複雑なフローが発生している。
加藤:もしかしたら、琥珀さん側の時空とコブラたち側の時空と、時の流れが違うのかもしれない。『インセプション』【2】みたいな感じで、コブラたちが戦ってる時に琥珀さん側はゆっくり時間が流れているのでは。
【2】クリストファー・ノーラン監督による2010年公開の映画。主演はレオナルド・ディカプリオ。世界のケンワタナベも出演。設定が難解すぎて「コマが回る映画」としか説明できないけど傑作。
藤谷:『HiGH&LOW』の世界はお気持ちで相当時間感覚が変わるところはありますよね。
加藤:いろんな意味でいびつな映画だとあらためて思いました。
藤谷:でもそれは、「お気持ち」が溢れた結果なんですよ。
加藤:最初の『HiGH&LOW THE MOVIE』(以下ザム)のときも、すごいお気持ちがあふれてました。ただザムでは一応脚本上の時間の流れをしっかり設定してて、具体的に日にちを上げたりしていた。「2日後、マイティ、ダウト、総勢500人を連れて、琥珀さんがSWORDを潰しに来る」とかセリフで入れて。いや、それも冷静に考えたらおかしい事態なんですけど、とにかく時間の流れを区切って、キャラの動きもそれに合わせて整理していた。
藤谷:今回は作中の出来事の時間経過が、1週間なのか、3日なのか、1晩なのか分からない。今回の場合、熱量が溢れた結果というよりも、あまりにも短期間に2本を撮影したため、単純に構成に未整理なところが出てしまったという考え方もできるのではないか。どのタイミングでSWORDのみんなが「コブラー!」と走っているのか。しかもそこでコブラにたどり着いたのはSWORDのみんなではなく、琥珀さんと九十九さん。コブラの居場所を偶然耳にしたのは九十九さんだから、そうなる理由はわかるんですけど、じゃあSWORDのみんなはどこに向かって走っていたの……?
編集部:あの5分割シーンは、ロッキーさんなんて「立ち上がるにも限度がある」って言ったばっかりで走ってて、何があってそんな急に復活できたのか、感情の理解が追いつかなかったです。
藤谷:そもそも5人が「コブラ!」と全力疾走しつつも、「助けるのは琥珀さんか〜い、ズコッ」みたいな気持ちもあります。
編集部:しかもその後、ロッキー・村山・日向は無名街のスモーキーの墓に着いているけど、ヤマトとノボルはいない。で、次の日の琥珀さん大号令のシーンで、「コブラ! 九龍潰そうぜ!」って出てくる。
加藤:ヤマトとノボルどこ行ったんだ問題、ありますね。
藤谷:このあたりは最初観たときは頭から「?」がとれませんでしたね。SWORDのみんな→コブラへの感情の受けどころがない。助けられた後にヤマトやノボルの「心配したんだぞ、コブラ」「俺達は仲間だ」みたいな一言でもあれば……。まあそんなベタなセリフ、ハイローで言わないと思いますけど。あんなに必死に走っていたSWORDのみんなに対しての目配せがないのは気になりました。
ハイローのアクションには「情」のバトルと「動」のバトルがある
編集部:対談前半はツッコミどころをいろいろ話していくことになりそうですが、そもそも、話の畳み方としてはどうでしたか?
加藤:散々文句を言いましたが、僕は悪くなかったと思います。見せ方が気になるところはあるにせよ、最終的に拳だけじゃ解決できないから、警察っていうちゃんとした大人の力で解決するのは良いと思います。それと、マスコミが入ってる生放送=ライブの場で訴える『サンクチュアリ』方式は、ある意味、ダンスパフォーマーの人たちの「ライブ」っていうものに対する信頼を感じました。だから落とし方は全然いいんです。あとはそれに至るまでの感情の流れや、エンタテインメントとして、僕が見たかったジェシーVSコブラ完全決着マッチとかをやっていただけたらより楽しめたという印象です。
藤谷:「無名街爆破セレモニー」でリアリティーラインが一気におかしなことになって、うやむやになったところはありますね。あの勢いに押されて、全部OKかなと。
加藤:そうですね、「無名街爆破セレモニー」が強すぎました。最初に名前聞いたときも「何じゃそりゃ」って思ったんですけど、実際劇場に見に行ったら、予想を超えるセレモニー感。スクリーンいっぱいの「RECEPTION OF CASINO」! あの時に「考えたら負けだろうな」とは思いました。
藤谷:あそこで脳が焼き切られますよね。満面の笑みでスイッチが押されて、しかも本当に半分は爆破されてしまう。
加藤:こういうところは最高だなって思いますね。話の締め方も、僕は「俺達の戦いはこれからだ」エンドは好きなので、全然いいです。逆に拳だけじゃ解決できないってことをテーマに掲げた以上はこういうラストしかなかったんじゃないでしょうか。
藤谷:そうですね、拳で解決してないのは誠実ですね。
加藤:あそこで琥珀さんたちが大臣をぶん殴っても良かったわけですけど、そういうことをせずにちゃんと解決したのは偉いです。ただ、拳だけで解決できないとすると、ハイローの一番の武器であるアクションを封印せざるを得ないので、そこに少しジレンマがありました。今回はザム2に比べるとアクションで物語る部分が少なくて、そのせいでガバガバなところをごまかしきれるだけの何かが足りなかった。だから不満も出てきてしまう。
藤谷:制作陣の方のインタビューでも言及されていますが、基本的に『HiGH&LOW』ってアクションとキャラクターと物語が連動していきますよね。その中でも感情に寄ったバトルと、アクションの快楽に寄せてるバトルがある。「情」のバトルと「動」のバトルというか。
ザム1ですと、スモーキーと劉の戦いは「動」に寄っていて、ラストの琥珀さん戦は「情」の戦い。ザム2は、USB争奪カーチェイスのくだりは「動」で、ロッキーと蘭丸の戦いは「情」のバトルでした。今回は、「情」のバトルがなかった。もちろん、加藤さんもおっしゃる通り「拳だけでは解決できない」っていう大きなテーマがあったからですが、アクションが見たかった人からすると、消化不良な部分が出てきてしまうところがある。
例えばですけど、源治を倒されたところで「俺が仇をとる」と黒崎が前線に立つだとか、九龍の頭とSWORDの頭が拳を交わすことがあっても良かった気はします。実際今回一番いいアクションシーンって、前半のワンカット風の琥珀さん九十九さん&雨宮兄弟vsヤクザチームでしょう。
加藤:片方はモロにヤクザなんですよね、スーツでドス持って。で、反対側から特殊部隊が出てくる。夢のような空間です。
藤谷:絵的には面白いんですけど、「追手に追われている人たち」以外の意味を持ってないから、アクションとストーリーを連動させるという意味では、ちょっとハイローイズムから外れている気がしました。
加藤:確かに。細かいところはいいんですけどね。今まで何回も繰り返し見てきたMUGENと雨宮兄弟の殴り合いの時と同じ技を雨宮兄弟が使っていたり、「おっ」とは思うんですけど、単体の映画のアクションとして観るとちょっと弱い。4人の共闘もザム2でもやってるんで繰り返しになってしまうし。
藤谷:ほかのアクションシーンも、琥珀さん+雨宮兄弟&ルードボーイズと、雨宮兄弟VS源治で、基本的には琥珀さん九十九さん&雨宮兄弟中心ですね。雨宮兄弟VS源治の「鎖」は笑ってしまいました。鎖を巻いた瞬間、めちゃくちゃ強くなって日本刀折れちゃうっていう、謎の源治弱体化もありましたけど。ザム2のロッキー対蘭丸でも鎖で首を締めていて、結構強い武器として使われてたんで、もしかしたらハイロー世界で鎖は車に次ぐ最強武器の可能性があります。
編集部:でも、雨宮兄弟推しとしてはあのシーンはちょっと……。正直、なんかカッコ悪いな、と。あの鎖巻くやつなんですか!ぜんぜんスタイリッシュじゃない!見た目がカッコイイのが雨宮兄弟の真理なのに……。
加藤:カッコいいじゃないですか!
藤谷:おもしろカッコいいぜ的な!
加藤:そうです! 僕は雅貴をおもしろ闇深(やみふか)お兄ちゃんだと解釈しているので、全然OKです!
編集部:「おもしろカッコいい」の人たちではなかったはずなんです! それと、2人+鎖vs1人は、はたしてカッコいいのか?と。
藤谷:それはたしかにそうですね。ゼロレンジコンバットで複数をバッタバッタとなぎ倒すのが雨宮兄弟の良さではあったから。
編集部:そうなんです。というか、雨宮兄弟は2人で全盛期100人のMUGENと対等に戦ったわけで、その2人+鎖でやっと勝てる源治の強さとは……と考え始めると、「ハイロー算」みたいになってきます。
加藤:「まさきくんたちはむげん100人を2人でやっつけました」
藤谷:「では、げんじくんは1人でむげんを何人やれるでしょうか?」
(ホワイトボードを使ってハイロー算を始める)
ハイロー算とは。
編集部 琥珀さんはザム2で源治と戦って、一応勝ってますね。琥珀さんと雅貴2人でも、どうにか勝って源治を水中に沈めてます。
加藤:あ、ここが決着がつかなかった理由としては、雅貴が1で広斗が弟だということで0.5だったとしたら……(ボードを書く)。
編集部:MUGEN時代から時間がたって、雨宮兄弟も琥珀さんも強くなってるはずです。だとすると数年前の琥珀さんと現在の源治がイコールなのかもしれず……(ボードを書く)。
藤谷:せんせー、私、算数の授業聞きにきたんじゃないんですけど〜。
加藤 そうですね、やめましょう。矛盾が生じますから。
村山のネット批判をどう見たか?
加藤:今回は脚本も、琥珀さんと九十九さん、雨宮兄弟に頼り過ぎだと思います。冒頭からコブラメインの話だったはずなのに、最終的に仕切るのは琥珀さんでしたし。
藤谷:ヤマトがスモーキーの気持ちを引き継いでなのか「俺たちももっと高く翔ぶ」って言いつつ、「だから琥珀さん、勉強させていただきます」になるのもよくわからない。
編集部:あれこそがEXILEイズムですよ。先輩の背中を見て後輩が「勉強させていただきます」。
加藤:僕は格闘技とかプロレスが好きなので、やっぱりあれを見てると猪木イズムを感じますね。
子供の頃に、橋本真也と小川直也の試合をテレビで観てて、「橋本が負けたら即引退」みたいな流れがあったんですけど、橋本が負けたんですよね(2000年4月7日東京ドーム大会「橋本真也34歳 小川直也に負けたら即引退!スペシャル」)。会場騒然で、「これどうなっちゃうんだろ?」って思っていたら猪木がいつも通り「いくぞ! 1、2、3、ダーっ!」を始めたんです。さすがに観客も困惑するっていう。
藤谷:EXILEイズム、猪木イズムとしては間違ってないということでしょうか。
加藤:その気持ちは間違ってないけど、こっちの気持ちも考えてくれという。
藤谷:琥珀さん単体のストーリーとしては、ザムからつながる美しい流れではあります。後輩のコブラたちに説得されて正しく生き直そうと思った人が、後輩の危機に駆けつける。ただ、普通だったらそこから一歩引いて、コブラがあとを仕切るはず。そういう常識で考えたらいけないのかもしれませんが、「あ、琥珀さんが仕切っちゃうの?」とキョトンとなってしまった。まあ、琥珀さんはHIROさん、ひいては“LDHの擬人化”なので、それはまあ最終的には「勉強させていただきます」にならざるをえないのか……。
加藤:LDH内の価値観や道徳観に照らせば満点なんだろうし、当然の展開だと思うんですけど、観てるこっちとしては「おや? そういう話だったっけ?」ってなります。
編集部:三代目がどれだけ売れても「我々がいるのはEXILE先輩がいらっしゃるおかげでございます」みたいなことを何度もライブのMCで言うので、そういう価値観なんですよ、やっぱり。
加藤:フィクションの中では、そこを引いてほしかったですね。そのせいで「感情線がぐちゃぐちゃじゃねぇか!」と。
藤谷:こっちが一方的にそう思いこんでるだけかもしれないけど、ハイローには「次世代への魂の継承」みたいなテーマがあると思うんです。それが態度ではなく、「勉強させていただきます」というセリフになってしまう。すべてが唐突なんですよ。村山のネット批判のセリフもそう。
加藤:あそこは正直、僕はいただけないですね。あのシーンって、キャラの人生観みたいなものが前面に出ているじゃないですか。今まで多くの人が自由に解釈していた「このキャラはこういう感じなんだろうな」というところに、ある意味での正解を出してしまうシーンでもある。だから、「この人、こういう人だったの?」ってなってしまう。あと、ロッキーは若干声も別人になってませんでした?
藤谷:キャラを固めるためのセリフであるはずなのに。
加藤:「な〜んか熱いんだよな〜」って、「あったか〜い」みたいな、そんな喋り方じゃなかったでしょ、あなた! 村山に至っては「あなたインターネットなんか知ってたの!?」っていう。
藤谷:もしかしたらディレクターズカット150分バージョン(※存在しません)には「まちBBS」で、鬼邪高批判があったのかもしれない。国が「無名街は負の象徴だから」って爆破セレモニーに踏み切りますけど、よく考えたらいくら存在がタブーになってる街でも、「爆破しよう」となったら普通は周辺住民が反対しますよ。それが歓迎ムードになるっていうのは多分ですね、闇のクラウドソーシングサイトで1件800円とかで雇われた人がネットで暗躍して……。鬼邪高校に関してもそういう人たちによる心無い書き込みがあって、それに村山が傷つくシーンがあったとか。
加藤:鬼邪高なんて普段から絶対に炎上しまくりですからね。きっと燃やされた時に、まとめサイトでは「【朗報】鬼邪高校さん、炎上しすぎて校舎まで燃える」みたいなスレまとめが。
編集部:轟がレスバトルに参戦してしまう……。ちなみに、村山を演じた山田裕貴くんは「僕自身が普段から思ってることを村山が言ってくれた」と語ってました。(「ぴあ映画生活」11月9日掲載「山田裕貴が語る、『HiGH&LOW』の人気キャラ・村山とシンクロする思い」)
藤谷:実際、ああいうセリフってヤンキーマンガだと結構ベタなものではあります。というか、『サムライソルジャー』【3】の最終巻でほぼ同じセリフがあるんですよ。自然に出たのかオマージュなのか、分からないですが。前回の対談でも言いましたけど、ヤンキーモノの自己肯定の根拠って「もっと卑劣なやつがいる」的な落としところになることが多い。「女性を騙してレイプするチャラい大学生のほうがヤンキーより悪」「ネットで中傷してるやつのほうがヤンキーの喧嘩より悪」という。これはある種の欺瞞でもあるんですが。
【3】(山本隆一郎/集英社)2008年~2014年「週刊ヤングジャンプ」にて連載。数々の不良集団が乱立する渋谷で起こる抗争を描く。
加藤:『HiGH&LOW』って今までも、話の都合でキャラを動かしていたところは多々ある。でも俳優さんがそのキャラをしっかり守っているから、そんなにキャラブレはなかったと思います。でもあのシーンだけは完全に制作側が伝えたいことをキャラクターが言っちゃってるから、すごくキャラブレに感じてしまう。
藤谷:逆に日向は一貫して「復讐と祭り」だった。日向が自分の人生の目的だった「復讐」から解放されて「祭り」に動機が変わっていくのが美しい流れだった分、「おや? 村山ちゃん?」という印象を受けてしまったのかもしれない。村山に関しては本人の演技力というよりは脚本や構成の不備だと思うから、150分バージョン(※存在しません)に「SWORD地区・まちBBS」があれば解決するんですけど。
編集部: LDHはこれまで特にネットで揶揄されがちだったから、ずっと彼らが思っていたことなんだろうな、というのもあります。でも、最後の最後で言いたいことを一個我慢できないダサさを見てしまった感じはしました。それはそれでLDHらしいですけど、ハイローを観る人全員にその受け止め方を要求するのは無茶です。
藤谷:こういうのも「ネットでグチグチ言いやがって」って怒られるのかな……。
加藤:いや、これはいいでしょう! 許してください!
拳で解決できなくなった『HiGH&LOW』に与えられた課題
藤谷:ひとつひとつのシーンは本当に素晴らしいんですよ。琥珀さんがコブラを助けるシーンもすごくいいし、DTC周りの笑いどころもきちんと笑える。ただ連結部分がガタガタになっていて、1個1個のシーンは「10点満点」だけど「合計は?」ってなる。九龍を倒すのにしても、気がついたら九龍の半分は心変わりしてて、一方はバルジが手を引いたからって切り上げてしまう。SWORDのみんなの力で解決したわけではない。そこがちょっと消化不良に感じられてしまいました。
加藤:今回、九龍側でコブラが一番対立した善信が途中で退場してしまうのが良くなかったと思います。善信が倒されて、「俺の負けだ」って認めて去っていく話でもよかったのかもしれない。
藤谷:コブラが対峙する相手が、途中で善信から黒崎になってますしね。だから、乗り越えるべき対象がちぐはぐになっている。大臣も地位を失うでしょうし、九龍の皆さんもマスコミに捕まっていますが、拳で解決してないからカタルシスが薄くなっている。拳を封印したことが裏目に出ている。でも、拳を封印するっていうその選択は間違ってない。
加藤:その気持ちは間違っていない。ただそうなると、今までの『HiGH&LOW』とはまた違う技術が必要になってくる、ということですね。
藤谷:ザム3は、このままアクションで押し切ってもよかったのに、拳を封印したという新たな挑戦だったととらえることはできると思います。それはひとつの勇気だと思うんです。これで話を一回畳んだことによって、また新しいことができるのかもしれない。九龍も「破壊と再生」みたいなことを言ってましたし。
加藤:『HiGH&LOW』に限らず、例えばLDHピクチャーズ【4】が今後映画作っていく上で、多分ここで培ったものは失敗点も成功点も含めてすごく役に立つでしょうね。
【4】「LDH PICTURES」「HI-STREET PICTURES」「HIGH BROW CINEMA」の3つのレーベルからなるLDHの映画配給会社。
藤谷:ある種ベンチャー企業らしいというか、フィードバックがめちゃくちゃうまい集団だと思いますから。
加藤:「一回言われたことはすぐ覚える」みたいなところがありますよね。
藤谷:だからこそ次の展開にも期待が持てると思います。
加藤・藤谷の熱いハイロー談義はまだまだ終わらない!
後編は明日公開予定です。
(構成/斎藤岬)
<プロフィール>
加藤よしき
ライター。1986年生まれ。「Real sound」などで執筆。『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』(洋泉社)に寄稿。
ブログ:http://blog.livedoor.jp/heretostay/
twitterID:@daitotetsugen
藤谷千明
ヴィジュアル系とヤンキーマンガとギャル雑誌が好きなフリーライター。1981年生まれ。執筆媒体「サイゾー」「Real sound」「ウレぴあ」ほか。
twitterID:@fjtn_c
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