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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.448

下着も生ぬるい日常も捨てて、映画へ出よう! 寺山修司原作のボクシング映画『あゝ、荒野』

下着も生ぬるい日常も捨てて、映画へ出よう! 寺山修司原作のボクシング映画『あゝ、荒野』の画像1対人恐怖症の建二(ヤン・イクチュン)はボクシングを通して、対戦相手と肉体言語を交わし合おうとする。

 映画館の暗闇の中でただ待っていても、何も始まらないよ──。1970年代のカルチャーシーンにおいてカリスマ的存在だった寺山修司は、初監督作『書を捨てよ町へ出よう』(71)の冒頭、映画館へ足を運んできた観客たちをスクリーンの中から挑発してみせた。本を閉じて、現実の町へ繰り出そう。映画を見るのではなく、君が映画の主人公になればいい。詩人、劇作家、演出家と多彩な才能を発揮した寺山は、新しい時代のアジテーターだった。47歳で亡くなった寺山が今も生きていれば、ネット検索なんかやめて、自分の肉体を使って夜の街を検索して回りなさいと説いたんじゃないだろうか。大ブレイク中の菅田将暉と『息もできない』(09)のヤン・イクチュンがダブル主演した『あゝ、荒野』は、寺山が残した同名小説の映画化であり、半年にわたってボクシングのトレーニングに励んだ菅田とイクチュンとがお互いの肉体をぶつけ合うことで奏でる愛憎のセッションを観客は体感することになる。

 アニメ『あしたのジョー』の主題歌を作詞し、菅原文太&清水健太郎主演映画『ボクサー』(77)を監督するなど、ボクシングという肉体言語の世界をこよなく愛した寺山修司。映画『あゝ、荒野』は前後編合わせて5時間5分にわたり、寺山ワールドを現代的に咀嚼して見せていく。時代設定は『あゝ、荒野』が執筆された1966年ではなく、2度目の東京五輪が終わった2021年。寺山が呑み歩いた猥雑なエネルギーが渦巻く新宿が舞台だが、近未来の新宿は爆破テロが度々起き、ラブホテルは老人介護施設にリニューアルしつつある。そんなかつてのネオンの荒野で、どこにも自分の居場所を見つけることができずにいる不良児・新次(菅田将暉)と吃音症の建二(ヤン・イクチュン)が寂れたボクシングジムで出逢い、殴り倒すか倒されるかの世界に生きる喜びを見出していく。

 幼い頃に母親に捨てられた新次は振込み詐欺などの裏稼業で羽振りよく暮らしていたが、同じ養護施設で育った後輩・裕二(山田裕貴)に裏切られ、少年院送りとなった。出所した新次は喫茶店で声を掛けたヤリマン女・芳子(木下あかり)と連れ込み宿で7~8回連続でSEXしまくり、すっきり気持ちよく翌朝を迎える。ところが目覚めると、芳子の姿と共に新次の所持金も消えていた。新次に唯一残されていたのは、野獣のように煮えたぎる怒りの感情だけだった。

下着も生ぬるい日常も捨てて、映画へ出よう! 寺山修司原作のボクシング映画『あゝ、荒野』の画像2幼少期に被災生活を体験したヤリマン女の芳子(木下あかり)。新次(菅田将暉)と交際することで、彼女の生き方も変わっていく。

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