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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.439

切実な居場所さがし『ハイジ アルプスの物語』『幼な子われらに生まれ』に見る不定形な家族像

切実な居場所さがし『ハイジ アルプスの物語』『幼な子われらに生まれ』に見る不定形な家族像の画像1実写映画『ハイジ アルプスの物語』。肉親からの愛情に飢えている野生児ハイジと都会育ちの令嬢クララは永遠の友情を誓い合う。

 自分の居場所がどこにもない、誰からも必要とされていない。現代人にとって、とても切実な問題だ。イス取りゲームのように、ようやく自分が腰かけられるイスを見つけても、すぐに音楽が流れ始め、再び数少ないイスを奪い合うはめに陥る。「こんなゲーム、やめよう」と誰も言い出せないまま、また音楽が流れ始める。それならいっそ、どこかイスのない世界を見つけたい。スイスの児童文学『アルプスの少女ハイジ』は、高畑勲(演出)、宮崎駿(場面設定・画面構成)が手掛けたテレビアニメシリーズ(フジテレビ系/1979年)で日本でもおなじみの作品。スイス・ドイツ合作映画として実写化された『ハイジ アルプスの物語』を観ると、ひとりの少女の居場所さがしという現代的なテーマが込められた物語であることに気づかされる。

 アニメ『アルプスの少女ハイジ』は高畑勲、宮崎駿らがスイス・ドイツをロケハンして回った日本初の意欲的なテレビアニメだった。その甲斐あって、アルプスの雄大な山並みやアルムの村の暮らしぶりなどが見事にアニメーション化され、日本だけでなく世界中の人々を魅了する作品となっている。高畑勲、宮崎駿が大自然と人間とが共生する理想郷(後のスタジオジブリ作品に共通するテーマ)として描き出したアルプスの山小屋での生活が、今回の実写映画ではスクリーンにそのまま映し出される。肌着姿で野原を走り回るハイジ、屋根裏部屋の干し草のベッド、子ヤギのユキちゃんたちをペーターと一緒に放牧するシーン、とろけるチーズを乗せた美味しそうなパン、ソリに乗っての雪山の大滑降……。アニメ版でもおなじみの名場面を、上映時間111分の中にぎゅっと凝縮された形で楽しむことができる。

切実な居場所さがし『ハイジ アルプスの物語』『幼な子われらに生まれ』に見る不定形な家族像の画像2アルムおんじは『ヒトラー 最期の12日間』(04)でヒトラーを演じたブルーノ・ガンツ。原作では若い頃に傭兵部隊にいたことになっている。

 原作ではキリスト教色が強かったが、アニメ版と同様に今回の実写映画も宗教色は薄め。幼い頃に両親を失ったハイジ(アヌーク・シュテフェン)は、叔母デーテ(アンナ・シンツ)に連れられて、アルプスの山奥で暮らすアルムおんじ(ブルーノ・ガンツ)のもとを訪れる。それまでハイジの面倒を看ていたデーテだが、子連れでは仕事先が限られてしまう。ハイジにとって祖父にあたるアルムおんじに引き取ってほしいと頼みにきたのだ。頑固で偏屈なアルムおんじは拒絶するも、デーテはハイジを置き去りにして一方的に帰ってしまう。アルムおんじは仕方なく、引き取り先が見つかるまでハイジを山小屋に置くことにする。村人と交流しないアルムおんじのことを、村人たちは「過去に人を殺し、それで山小屋で暮らしている」と噂していた。そのことを耳にしたハイジが「おじいさんは人を殺したの?」と恐る恐る尋ねると、アルムおんじは「お前は村の噂と私のどっちを信じる?」と質問で返してきた。幼い頃に施設に預けられた経験もあるハイジは、ひとりぼっちでいる哀しみや閉鎖的なコミュニティーで暮らすつらさを身に染みて理解していた。ハイジは自分よりずっと体の大きいアルムおん
じを優しくハグする。小さな理解者を得て、アルムおんじはようやく心を開くことができた。祖父と孫娘との2人っきりの小さな家族が誕生した瞬間だった。

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