嫌な予感しかしない東京で見つけたささやかな灯り 石井裕也監督『夜はいつでも最高密度の青色だ』
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自由を手に入れるということは、孤独さを受け入れるということでもある。都会で暮らす若者たちのそんな自由気ままさと背中合わせの孤独さを、繊細な映像を積み重ねることで描いてみせたのが、石井裕也監督の最新作『夜はいつでも最高密度の青色だ』。石井裕也監督(1983年生まれ)とはほぼ同世代である詩人・最果タヒ(1986年生まれ)の詩集『夜はいつでも最高密度の青色だ』(リトルモア)からの引用やアニメーションを散りばめながら、2020年の五輪開催に向けて再開発が進む東京の景観と時流に迎合できずにいる若者たちの屈折した心情をスクリーンに映し出していく。
大阪芸術大学の卒業制作『剥き出しにっぽん』(05)で監督デビューを果たし、満島ひかり主演作『川の底からこんにちは』(10)がスマッシュヒット。さらに『舟を編む』(13)で国内の映画賞を総なめした石井裕也監督。満島ひかりとの共同生活は5年ほどでピリオドを打つことになったが、3年ぶりの劇場公開作となる『夜はいつでも最高密度の青色だ』は第二のデビュー作と呼びたくなるほど瑞々しい作品となっている。
これまでの石井裕也監督は、『川の底からこんにちは』では“中の下”を自認するヒロインが開き直りパワーで潰れかけていた会社を立て直して疑似家族化していき、『舟を編む』では奥手な編集者が時間を費やして下宿先や職場の仲間たちと新しい家族になっていく様子を描いてきた。『ぼくたちの家族』(14)ではバラバラだった一家が母親の入院をきっかけに再生を目指し、ビッグバジェットが投じられた『バンクーバーの朝日』(14)ではカナダで暮らす日系二世たちが野球を通して結束力のあるコミュニティーとなっていった。新しい時代の新しい家族像を、石井裕也監督は映画製作の中で模索し続けてきた。
新しい家族が生まれていく過程を一貫して描いてきた石井裕也監督だが、今回はひとりの女性とひとりの男性が街で出逢うという極めてシンプルな物語となっている。ヒロインである美香に抜擢されたのは、新人女優の石橋静河。現在公開中の『PARKS パークス』にも出演しているが、まだ演技キャリアは浅く、本作では固い表情を見せているシーンが多い。でも、そんな頑な横顔は、美香が周囲にうまく合わせることができずにいる不器用さと重なり合う。石橋凌と原田美枝子の娘という芸能一家の血筋であり、長年モダンバレエをやっていたこともあって、背筋がピンと伸びた立ち姿は人混みの中でも妙に目立ってしまう。そんな彼女が纏う違和感に引き寄せられるようにして夜の街で出逢うのが、池松壮亮演じる慎二だ。
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