映画製作を禁じられた国際派監督のトンチ人生!! 車中から見えてくるイランの内情『人生タクシー』
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マーティン・スコセッシ監督の名作『タクシードライバー』(76)から、ジム・ジャームッシュ監督の『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91)、梁石日の小説を映画化した『月はどっちに出ている』(93)、ジェイミー・フォックスが犯罪に巻き込まれる『コラテラル』(04)など、タクシー運転手を主人公にした作品は味わい深いものが多い。タクシー映画ではタクシーが走る街そのものが主人公であり、またそんな街に身の置き所を見つけることができずにいるタクシー運転手の哀愁も排ガスと共に漂う。2015年のベルリン映画祭で金獅子賞を受賞したイラン映画『人生タクシー』もまた、ワケありなタクシー運転手のドラマだ。
ジャファル・パナヒ監督の『人生タクシー』(原題『TAXI』)が他のタクシー映画と比べてかなりユニークな点は、パナヒ監督自身がタクシードライバーとして登場するということ。POVスタイルの作品となっている。パナヒ監督はワールドカップのイラン戦を生観戦するために男装してスタジアムに忍び込む女の子たち(イランでは男性競技を女性が見ることを禁じている)を主人公にした『オフサイド・ガールズ』(06)などのドキュメンタリータッチの作品で国際的に高い評価を得ている。だが、現在のイランでは自由な表現活動は認められておらず、パナヒ監督の師匠にあたるアッバス・キアロスタミ監督はイタリアや日本で映画を撮るようになり、16年にパリで客死している。母国で映画を撮り続けていたパナヒ監督だが、『オフサイド・ガールズ』や仮釈放中の女囚たちを主人公にした『チャドルと生きる』(00)は反体制的な映画だとされ、2度にわたって逮捕された。それでも自宅で軟禁状態に置かれている様子をデジカメ撮影し、『これは映画ではない』(11)としてカンヌ映画祭で発表するなど、ものすごく気骨のある映画監督である。
そのパナヒ監督がタクシー運転手となって登場する。軟禁状態は解かれたようだが、裁判所からは「20年間にわたって映画製作、脚本執筆、海外旅行、インタビューを禁じる」と言い渡されている。そこでパナヒ監督は「僕は映画監督ではなくタクシー運転手」であり、「これは映画ではなく、タクシーに置いていたカメラにたまたま映った映像」という逃げ口上を考えたわけだ。まるで一休さんと将軍・足利義満とのトンチバトルではないか。まぁ、パナヒ監督とイラン政権との関係を知らずに観ていたら、「映画監督で食べていくのが大変なので、副業でタクシー運転手を始めたのかな」と思われかねない。頭の固い役人や政治家たちを相手に映画を撮るには、トンチと勇気が必要であることをパナヒ監督は身を持って示している。そんなドキュメンタリー映像なのか劇映画なのかよく分からないものとして、パナヒ監督が運転する『人生タクシー』は発進する。
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