伝説のプロデューサーと新鋭監督がガチゲンカ!! アウトロー映画『ろくでなし』に漂う不穏な熱気
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ザラザラと乾いた肌感触。口の中を切ったときに感じる、あの血の味わい。北野武監督の初監督&主演作『その男、凶暴につき』(89)を初めて観たときの衝撃が忘れられない。ザラついた肌触りと血の味は本来なら不快なもののはずなのに、北野監督の処女作にはそれが甘い陶酔感に感じられた。同じような感触を、ヤン・イクチュン監督の長編デビュー作『息もできない』(08)やニコラス・ウィンディング・レフン監督のハリウッド進出作『ドライヴ』(11)を観たときにも感じた。どの作品の主人公たちも現実社会に苛立ち、ふとしたことで溜め込んでいた感情を暴力という形で炸裂させる。歩く不発弾のような危ない男たちだ。奥田庸介監督の新作『ろくでなし』も、いつ爆発するか分からない不発弾を抱えて生きる男たちのザラザラとした肌触りと血の味を感じさせるドラマとなっている。
物語の舞台は現代の渋谷。新潟の刑務所を出てきたばかりの一真(大西信満)は流れるようにして東京に辿り着いた。建設現場で働くも、長くは続かない。そんなとき、夜の渋谷で見かけた女・優子(遠藤祐美)を一方的に“運命の女”と思い込み、優子の勤めるダンスクラブへ。クラブでガンを飛ばしてきた若者相手に大立ち回りを演じる一真だったが、その腕っぷしの強さを買われてクラブのオーナー・遠山(大和田獏)の用心棒として雇われる。裏社会の住人でもある遠山は頭のネジが数本外れており、遠山が撲殺した裏社会の顔役の死体を兄貴分・ひろし(渋川清彦)と共に処理することに。暴力まみれの生活を送る一真だが、その一方では優子への想いを募らせ、彼女の帰り道を追ってアパートまで付いていくようになる。だが、一真にとっての“運命の女”優子は男関係や金銭問題など様々なトラブルを抱えている女だった──。
無口な男・一真は、若松孝二監督の反戦映画『キャタピラー』(10)で手足を失った芋虫男を、大森立嗣監督の官能作『さよなら渓谷』(13)で真木よう子を相手に大胆な濡れ場を演じた大西信満。一真と同じ新潟の刑務所出身という自慢できない“同窓生”ひろしに『お盆の弟』(15)と『下衆の愛』(16)で売れない映画監督を哀愁たっぷりに演じた渋川清彦。オーディションでヒロイン・優子に抜擢された遠藤祐美は、薄幸系女優と呼ばれた麻生久美子をさらに幸薄そうにした雰囲気が本作によく合っている。ひろしの舎弟・由紀夫を演じた『ケンとカズ』(16)の毎熊克哉、優子の妹・幸子を演じた上原実矩も、みんな不機嫌そうな面構えだ。ままならない現実に苛つきながら生きている。でも、あまりに不満を呑み込みすぎると、クラブのオーナー・遠山(大和田獏が怪演!)のような狂人になりかねない。そうならないよう、彼らは不器用ながらも自分たちなりの幸せを掴もうと懸命にもがき続けている。
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