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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.412

矢口史靖監督流“楽しい”ディザスタームービー!『サバイバルファミリー』が描く電気のない世界

矢口史靖監督流楽しいディザスタームービー!『サバイバルファミリー』が描く電気のない世界の画像1謎の原因で電気が使えなくなってしまう『サバイバルファミリー』。サイバー攻撃でも起きうる、かなりリアルな設定だ。

 2016年は『シン・ゴジラ』『君の名は。』『この世界の片隅に』など想定外の大災害にどう向き合うかをテーマにした作品が大きな反響を呼んだが、矢口史靖監督のオリジナル脚本作『サバイバルファミリー』もその流れの一本に加えることになりそうだ。もしも、まったく電気が使えない状況になったら、どーなる!? 灯りが消え、パソコンも電化製品もいっさい使えなくなり、街全体がパニックに陥る中、ごく平凡な一家・鈴木家の人々は東京から鹿児島までの道程1,400キロを自転車で走破しようとする。スマホでの位置確認はできず、コンビニでの食料補給も叶わない中、鈴木家の人々はいかにしてサバイバルツアーを続けるのか。コメディを得意とする矢口監督ならではの明るいサバイバルムービーの始まりだ。

 矢口監督にとって、本作は10年ごしの企画だった。実話を題材にした『ウォーターボーイズ』(01)をロングランヒットさせた矢口監督が、次回作として考えていたのがパソコンやケータイなどのデジタルツールが使えなくなるというSFパニックものだった。折しも2003年には北米で原因不明の大停電が起き、NYが大騒ぎになっている様子がニュース映像で伝えられた。矢口監督は電気のない世界を、デジタルツールが苦手な人々(矢口監督がそう)にとっての楽園として描くことを考えていたが、スケールが大きな割りには映画としては地味なことから、矢口監督がホームグランドにしているアルタミラピクチャーズではこの企画は凍結扱いに。ところが2011年に福島第一原発事故に伴う計画停電が全国的に実施され、“電気が使えなくなる”という状況がとても身近なものとして浮上してきた。矢口監督にとって初となるパニック映画『サバイバルファミリー』はこうして動き出した。

 スマホをはじめとする便利な電子機器に依存しがちな現代社会を風刺した本作だが、矢口監督らしくパニックに陥った街の様子を事細かくシュミレーションしてみせる。突然電気が使えなくなったことで、コンピューターで制御されていた水道やガスといったライフライン、さらには交通機関や流通機能も停止。テレビやラジオも点かないので、政府による公式見解もわからない。会社や学校はお休み状態だし、スーパーやコンビニで売っている飲料水や食料もあっという間に売り切れてしまう。いつまで待てば電気が復旧するのか見通しも立たないため、いつも威張っているくせに頼りないお父さん(小日向文世)はお母さん(深津絵里)の実家のある鹿児島へ向かおうと言い出す。普段は父親の存在を無視しまくっていた大学生の息子(泉澤祐希)と高校生の娘(葵わかな)も仕方なく従うことに。鈴木家の人々は自転車を必死に漕いで、遥か九州の最南端を目指す。当然ながら、矢口監督のデビュー作『裸足のピクニック』(93)のように、鈴木家の人々は行く先々で悲惨な目に遭遇し続ける。

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