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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.409

北朝鮮は“トゥルーマン・ショー”国家だった!? 演出だらけの日常生活『太陽の下で 真実の北朝鮮』

taiyouno-shitade01北朝鮮ではエリートコースである北朝鮮少年団への入団が決まったジンミちゃん。撮影期間中、明るく利発な少女を演じ続けた。

 ジム・キャリー主演のコメディ映画『トゥルーマン・ショー』(98)を覚えているだろうか。気のいい保険のセールスマン・トゥルーマンの暮らしている自宅や街は、実はすべてドラマセットであって、彼の日常生活は密かにテレビ中継されているというもの。この『トゥルーマン・ショー』にそっくりなドキュメンタリー映画が、『太陽の下で 真実の北朝鮮』(チェコ=ロシア=ドイツ=ラトビア=北朝鮮合作)。ロシアの著名なドキュメンタリー監督ヴィタリー・マンスキーは北朝鮮を訪ね、平壌でごく普通に暮らす家族の日常生活を1年間にわたって密着取材しようとしたのだが、北朝鮮側があらかじめ撮影ポイントを決め、カメラに映る人々が口にする会話もすべて脚本として用意された上で、“最高の国・北朝鮮のごく普通の家族”を撮るはめになってしまった。だが、マンスキー監督はただでは転ばない。北朝鮮側の監督がちょくちょくカメラフレームに入ってきて「そこはもっと笑って」「明るく元気に」と演出し、リテイクを繰り返している様子を盗み撮りすることに成功。ごく普通の家族の日常を撮るために、様々な演出が施されている様子が映り込んだ、おかしなドキュメンタリー映画『太陽の下で』はこうして誕生した。来日したマンスキー監督に撮影現場の状況について聞いた。

 本作の主人公となるのは、8歳になるジンミちゃん。丸顔でツインテールの三つ編みがかわいらしい女の子だ。冒頭、真新しいジャケットを着込んだジンミちゃんはバスに乗って、学校に向かう。クラスにいる同級生の女の子たちもかわいいい子ばかりで、鼻水を垂らしているような貧乏くさい子はおらず、みんな行儀よく授業に耳を傾けている。先生も若い女性で、なかなかの美人さんだが、この先生の歴史の授業が強烈だ。「金日成大元帥さまは子どもの頃から、日本人と地主を憎んでおられました」「遊び浮かれている日本人に万景峰から大きな石を投げつけ、追い返しました」と抗日運動と神話化された建国の歴史をごっちゃにして、イノセントな少女たちに叩き込む。女の子たちが元気よく暗誦できるようになるまで、何度も何度も繰り返す。幼い頃から反日思想を徹底的に教え込む、北朝鮮の学校教育の恐ろしさを序盤からまざまざと見せつけられる。

マンスキー監督「ひとりの純真な女の子が、社会主義国家で生まれ育ち、どのようにして社会の一員になっていくかを追ったドキュメンタリーを撮りたいと考えていたんです。つまり、北朝鮮で有名なマスゲームのひとコマになっていく過程を追うことで、社会主義とは何かを考えさせる作品にしたかったのです。北朝鮮側に企画書を送り、2年ごしで撮影許可をもらい、平壌で撮影を始めたのですが、映画スタッフという名目で監視役が私にずっと張り付いた形で、自由に撮ることはいっさいできませんでした。誰を主人公にするかだけは私に委ねられていたので、ジンミという少女は父親がジャーナリストだというので、彼女の一家を取材することにしたのです。ジャーナリストなら、いろんな場所を見ることができるに違いないと。ところが撮影が始まると、ジンミの父親はジャーナリストではなく、縫製工場のエンジニアに変わっていました。母親はレストラン勤務だったのですが、やはり豆乳工場勤務に変わっていました。撮影初日から自分が撮りたいものを撮ることは無理だと分かり、4~5日目から今回のようなスタイルの作品にすることを決心したんです」

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