5円の値上げで大乱闘! “世界で一番ビートルズを憎んでいる男”と東京オリンピックと学生運動と──『60年代ポップ少年』
#本
日本テレビの長寿番組『笑点』が今年で50周年を迎え、 桂歌丸の司会引退が話題になった2016年。番組の顔である歌丸の勇退は、一つ時代が動いた瞬間であったといっても過言ではない。その笑点の始まった50年前、1960年代とはどんな時代だったのか。
『60年代ポップ少年』(小学館)は、SF作家、キャスターなどで知られる亀和田武が自身の半生を回顧しながら、60年代の文化を独自の視点で解説する自伝的エッセイだ。
小学生のときに、ラジオから流れてきた坂本九の「悲しき六十歳」を聞いたことでポップカルチャーに目覚めた亀和田少年は、和製ポップス音楽、SF小説、ジャズ喫茶、さらには学生運動にまで熱中していく。
亀和田は、“世界で一番ビートルズを憎んでいる男“を自称する。その理由は、愛してやまない和製ポップスが、ビートルズの登場によって、一気に“懐メロ”へと追いやられてしまったからだという。自身にとっての“ビートルズショック”とは、ビートルズによって、大好きな音楽が世の中から消えてしまったことだ、と語る。
そんな作者の書籍であるからして、本書は、いわゆる世間一般の“60年代本”とは毛色が違う。
例えば、1964年開催の東京オリンピック。60年代を語る上では、欠かすことのできないアジア開催初の世界的スポーツイベントに関しても、亀和田は冷ややかな視線を向ける。
オリンピックの生中継を見るために足早に家路につく同級生を横目に、同級生で同じくひねくれ者の柏木くんと一緒に、ため息をつきながら電車へと乗る。2人は、なぜだか千鳥ヶ淵公園のボートの上で、その日を迎えた。
全世界の注目を集める記念すべき祭典の日に、暗い顔の高校生2人がボートの上。もちろん、他にボートを漕いでいる人などいない。そんな2人の頭上を小型ジェット機が数台通過し、 白煙を噴射して五輪のマークを空に描いた。 暗い表情でため息をつくボートに乗った高校生と、オリンピックに沸く世間の喧騒の対比がなんとも言えない。
当然のことながら、あの当時、国民全員がオリンピックに熱狂していたわけではない。少数派のひねくれ者たちの60年代は、私たち読者にまた違ったものを見せてくれる。
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