深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.399
芸能界の荒波を生きるのんと主人公が重なり合う、戦時下における日常アニメ『この世界の片隅に』
2016/11/03 18:00
#映画 #パンドラ映画館
すずと最初に仲良くなる周作の姪っこ・晴美。彼女が指差す先には、戦艦大和や巡洋艦青葉など多くの軍艦が海に並んでいた。
そんな片渕監督の作品には共通して流れているテーマがある。『名犬ラッシー』で主人公が“永遠の少年性”の象徴である愛犬ラッシーのことを思い続けていたように、片渕作品の主人公たちは自分にとっていちばん大事なものを懸命に守ろうとし、また消えゆく運命にあるものを大切に思い続けるということだ。ままならない人生を生きていくには、せめて自分が本当に大切にしているものを心の中で守り抜くしかない。形は失われても、心の中で思い続けることで、大切なものは本人と一緒に生き続けることができる。
すずが大切にしていたもの、守ろうとした世界を、片渕監督はアニメーションとして甦らせ、そしてのんが声優としてその世界に命を吹き込んだ。愛すべき日常生活がスクリーンの中に息づいている。126分間にわたるタイムトラベルを終えた我々は、70年前にすずが味わった喜びと痛みを同時に体感することになる。
(文=長野辰次)
『この世界の片隅に』
原作/こうの史代 監督・脚本/片渕須直 音楽/コトリンゴ
出演/のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、藩めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓、澁谷天外
配給/東京テアトル 11月12日(土)よりテアトル新宿ほか全国公開
(c)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
http://konosekai.jp
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