「山口組分裂騒動は“チャンス”だった」異色の社会学者が語る、暴排条例の“穴”とヤクザの苦境
#本 #暴力団 #インタビュー
昨夏に勃発した山口組分裂騒動から、1年の月日が経過した。この間、ヤクザに対する世間の注目は高まり、多くのヤクザ関連書籍が書店をにぎわせている。一方、2011年の暴力団排除条例の施行に伴い、一般人と暴力団組員との交際は厳しく禁止され、銀行口座の開設や保険の加入ができなくなり、賃貸契約も結べないなど、ヤクザたちは、かつてないほどの窮地に追い込まれている。一般社会から見れば、反社会的な勢力が弱体化することは健全だ。しかし、ヤクザの生活を奪い、人権を侵害するこの条例に対しては、憲法違反を指摘する専門家も少なくない。
犯罪社会学者・廣末登による著書『ヤクザになる理由』(新潮新書)は、元ヤクザ組員たちと寝食を共にしながら、彼らがヤクザになった理由を追い求めた1冊だ。本書によれば、家庭、学校、地域などにおける、さまざまな理由が重なって、若者たちはヤクザの世界へと足を踏み入れているという。ヤクザは今、どんな状況に置かれているのだろうか? そして、彼らの真の姿とは、どのようなものなのか? 廣末氏に話を聞いた
――まず、今回『ヤクザになる理由』を執筆されたきっかけを教えてください。
廣末登(以下、廣末) 2014年に研究書として出版した『若者はなぜヤクザになったのか』(ハーベスト社)を、一般向けにわかりやすく書き直したのが本書です。以前から、自分の研究に対して、一般の方からも「ヤクザに対する見方が変わった」「ヤクザって、こういう人間だったんだ!」といった驚きの声があり、さまざまな人に伝えていく必要を感じていました。
――社会学の世界では、廣末さんのようなヤクザ研究者は多いのでしょうか?
廣末 かつてはヤクザから聞き取り調査をしたり、追跡調査をしながら、論文がいくつも書かれていました。しかし、1991年の暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)の施行以降、ヤクザ研究も難しくなり、だんだんと刑務所の中だけでの調査になっていきます。その結果、ヤクザの実態がつかめず、統計上の数字ばかりになってしまった。そこで、自分の足で調査をしなければいけないと思い、フィールドワークを始めたんです。
――本書では、10年にわたってフィールドワークを行い、廣末さんが耳にした元ヤクザの人々の生い立ちがまとめられていますね。
廣末 元ヤクザの人々を支援する教会に住み込み、調査を行いました。時間をかけて付き合い、誠実に向き合って、信頼関係をつくる。それによって、等身大のヤクザに触れることができ、「生の声」が集まるんです。そのように接していると、彼らが「違和感のない人間」であることが理解できるんです。
――「違和感のない」とは?
廣末 人間と人間が腹を割って付き合ったら、たとえ元ヤクザでも、普通の人とほとんど変わりません。彼らにも、カタギの友達がいるし、家族もいる、ひとりの人間なんですよ。
――「人間としてのヤクザ」が見えてきた、と。
廣末 そう。ある親分が妻の出産を契機にカタギに転身し、まじめに働いていたんですが、ある日、妻が子どもを連れて出て行ってしまった。そんな彼から「おれには子どもしか残されとらん。子どもがおったからこそ、カタギになった」と、泣きながら相談を受けました。
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