重力も人種の壁も乗り越えて、自由になりたい! ナチスと闘った黒人選手の葛藤『栄光のランナー』
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近代オリンピックは1896年のアテネ五輪から始まったが、現在のオリンピック大会に近い、巨大なスポーツイベントとして成長を遂げたのが1936年に開催されたベルリン五輪だった。ナチスドイツを率いるヒトラーは「ゲルマン民族の優位性を示すための場」として五輪を位置づけ、開会式で聖火リレーを導入するなど、様々な感動的な演出が施された。女優兼監督だったレニ・リーフェンシュタールは二部作のドキュメンタリー映画『オリンピア 民族の祭典』『オリンピア 美の祭典』(38)を残し、スタジアムに集まった観客たちの熱狂ぶりを今に伝えている。そんな“ヒトラーのオリンピック”とも称されたベルリン五輪で、ひとりの選手として孤高の闘いを挑んだのが米国代表の黒人選手ジェシー・オーエンスだった。彼は100m走をはじめ、4種目で金メダルに輝き、ヒトラーが唱えた「ゲルマン民族の優位性」が単なる妄想でしかないことを証明してみせた。
『栄光のランナー 1936ベルリン』(原題『Race』)は、ジェシー・オーエンスが陸上選手として絶頂期を迎えた20歳から22歳の2年間に絞ってスポットライトを当てた実録ドラマだ。物語の前半は貧しい家庭で育ったジェシーが良き指導者と出会い、めきめきと天賦の才を発揮していく胸熱な学園ドラマ編となっている。一家の期待を一身に背負って、オクラホマ州立大学に進学するジェシー(ステファン・ジェイムス)。自由な空気の西海岸ではなく、黒人への偏見が強い中南部の大学を選んだのには理由があった。オクラホマ州立大学陸上部コーチのラリー・スナイダー(ジェイソン・サダイキス)の指導を仰ぐためだった。ジェシーがトラックで走る姿を一瞬見ただけで、ラリーもジェシーにぞっこん。肌の色を越えて、ラリーとジェシーは相思相愛の関係となる。実家へ仕送りしなくてはならないなどの事情を抱えたジェシーだが、ラリーとの師弟関係によってクリアされる。ラリーが見守る中、ジェシーは100m走、200m走、走り幅跳びで次々と世界記録を更新。米国きってのスプリンターへと羽ばたく。
次期ベルリン五輪での活躍が期待される有望選手になったジェシーを、家族は温かく祝福する。だが、お祝いの席に意外な来客が現われる。全米黒人地位向上協会の会長(グリン・ターマン)がジェシー宅を表敬訪問し、ジェシーの活躍を賞讃したその口で、「ベルリン五輪は欠場してほしい」と伝える。金メダルが確実視されるジェシーが五輪をボイコットすることで、ヒトラーの人種差別政策の非道さを世界に訴えることができると。会長はジェシーがトラックで走る姿を一度も見ることなく、ジェシーに五輪欠場を迫った。ヒトラーと同じくらい冷酷な要求だったが、純朴なジェシーは欠場を真剣に考え始める。コーチのラリーはこの考えに唖然となるが、五輪に出場するかどうかはジェシー個人の判断に委ねる。
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