全国216万人を喰い物にする“悪い奴ら”──貧困ビジネスと闘った900日『潜入 生活保護の闇現場』
#本
生活保護法は、戦後、路上に溢れた孤児や大黒柱を失った家庭を救済するため、GHQ指導のもとに戦前の生活保護制度といえる救護法を廃止してスタートした国内最大のセーフティネットだが、実態がどういったものか知る人は少ないだろう。
『潜入 生活保護の闇現場』(ミリオン出版)は、生活保護受給者を喰い物にする悪しき「貧困ビジネス」と闘った著者・長田龍亮の900日のルポだ。長田は、ひょんなことから貧困ビジネスを展開していた「ユニティー出発(たびだち、以下ユニティー)」の施設で暮らすことになる。
ユニティーでは、おおよそ50歳以上の不特定多数の男性が生活していたという。彼らは、1人ももれずに受給者。生活保護を受けると、生活保護法で定められた“健康で文化的な最低限度の生活”を保障するための現金が毎月支給される。人によって金額は違うが、ユニティーはそれらを支給日に根こそぎ回収し、そのかわりに、毎日3食付き、狭小だがプレイバシーが確保された個室と、月に1度500円を自由な金銭として支給していた。
吸い上げられた保護費は、ユニティーの運営者である和合秀典が自身の事業の補填に回していた。和合は、ユニティーを運営する一方で赤字続きの飲食店など、儲けの出ない事業をいくつも抱えていたのである。
それを知った長田は、反旗を翻し次の受給日に「払いません!」と力強く宣言する。自身が第一号となれば、後に続く者もいるだろうと考えていた長田だったが、寮内の反応は薄い。
しばらくして、以前からユニティーと和合にらんでいた弁護団によって、和合は所得税法違反で逮捕された。300人以上いたとされる入所者は、別の施設に移動したり、福祉事務所の協力の下、職を得て寮を出て行った。ユニティーは閉鎖され和合の事業は、すべて廃業となった。
寮を出た人々は、保護費を他人に回収されることなく、自立した “健康で文化的な最低限度の生活”を謳歌していることに違いない……。長田がかつての寮仲間に会いに行くと、そうではない現実が待っていた。仕事にありつけてもすぐに辞めてしまったり、保護費を受給日にすべてパチンコやキャバクラに使ってしまうなど、ユニティーよりもひどい環境下で生活を送っていた。
後になってわかることだが、 “悪い奴ら”だったユニティーが他の施設よりも格段に環境がよく、和合を恨むどころか今でも感謝しているという声が多く上がった。思えば月に1度の500円しか支給されない金銭も、こうした乱費を防ぐための処置になっていたのかもしれない。生活保護費を巻き上げる一方で、環境が整ったユニティーと、ボランティアが運営する無償だが6畳の部屋にすし詰めにされる施設とでは、どちらが喜ばれるかは一概には言えないだろう。
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