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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 本人出演『アイヒマン・ショー』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.371

テレビ中継されたのは戦争の真実か残酷ショーか アイヒマン本人が出演する『アイヒマン・ショー』

eichmann-show011961年にイスラエルで開かれた“アイヒマン裁判”の様子をテレビマンの視点から伝える『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』。

 600万人が亡くなったとされるホロコーストで、いかに効率よくユダヤ人を強制収容所に移送できるかを計画したナチスドイツの戦争犯罪者アドルフ・アイヒマン。連合国側に顔が知られていなかったため、戦後は南米アルゼンチンで逃亡生活を送っていたアイヒマンだが、イスラエルの諜報機関モサドに見つかり、1960年にイスラエルへ強制連行。翌年4月から12月までイスラエルの首都エルサレムにて、“アイヒマン裁判”が開かれた。ユダヤ人虐殺を指揮したアイヒマンをユダヤ人国家が裁くということ、また戦時中の犯罪を戦後に作られたイスラエルの法律で裁くなど、様々な問題を抱えての法廷だった。

 この歴史的裁判の様子をテレビ中継することを企画したプロデューサーと、その中継を託されたディレクターとのエピソードをドラマ化したのが、『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』だ。BBCの人気ドラマ『SHERLOCK/シャーロック』のワトソン役でおなじみマーティン・フリーマン扮するプロデューサーたちが織り成すドラマに、実際のアイヒマン裁判の記録映像を中継画像として盛り込むことで、アイヒマン本人が出演するリアルなノンフィクション映画に仕立てている。

 アイヒマン裁判のテレビ中継を企画したプロデューサーのミルトン・フルックマン(マーティン・フリーマン)はユダヤ人で、ミルトンに要請されてディレクターを引き受けたレオ・フルヴィッツ(アンソニー・ラパリア)は米国で赤狩りに遭って仕事を干されている身だった。権力から抑圧されながらも生き延びてきたミルトンとレオが手を組んで、戦争犯罪者アイヒマンの裁判を全世界へと中継する。テレビ放送が始まって以来の画期的なプロジェクトだった。だが、話題を呼んだのは中継の開始直後だけ。視聴者はどんな極悪人が法廷に姿を現わすのか興味津々でテレビに魅入ったが、被告席に座ったアイヒマンは小役人風の平凡な中年男で、多くの視聴者は期待を裏切られてしまう。裁判は粛々と進み、視聴率は思ったほど伸びない。しかも、ソ連が有人宇宙ロケットの打ち上げに成功し、みんなの関心はそちらに移ってしまう。「過去より、未来に目を向けるべきだ」という世間の声にミルトンたちの心はぐらぐらと揺らぐ。

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