ロボット兵器と美少女が織りなすダークファンタジー『ライチ☆光クラブ』
#映画
今週取り上げる最新映画は、女性同士の美しい恋愛を描いたアカデミー賞候補作と、退廃的な世界観にボーイズラブ要素も添えた異色の和製エンターテインメント。社会通念や価値観の変化に伴い、メジャー配給映画でも多様な愛の形を描く作品が増えてきたのは喜ばしい傾向だ。
『キャロル』(公開中)は、ケイト・ブランシェットとルーニー・マーラの共演で女性同士の恋を描く恋愛ドラマ。同性愛への偏見が強かった1950年代のニューヨークで、デパート店員のアルバイトをしながら写真家を夢見るテレーズ(マーラ)は、来店したエレガントな女性キャロル(ブランシェット)を一目見て魅了されてしまう。キャロルが店に忘れた手袋をテレーズが郵送したことがきっかけで、2人は会食し、お互いを知るように。キャロルは別居中の夫ハージと離婚協議を進めていたが、ハージは娘の親権を盾に離婚を阻止しようとする。娘との面会を禁止されたキャロルは、テレーズを訪ね、車での小旅行に誘う。
米女性作家パトリシア・ハイスミスが52年に別名義で発表しベストセラーになった原作小説を、『アイム・ノット・ゼア』(2008年)で“6人のボブ・ディラン”の1人としてブランシェットを起用していたトッド・ヘインズ監督が映画化。ブランシェットが優雅な生活を送りつつも真実の愛を渇望する年上の主人公を、マーラが初めて同性との恋に落ち揺れながら成長していく女性を、それぞれ繊細な表情や視線の表現で熱演した。今月末発表のアカデミー賞ではブランシェットが主演女優賞、マーラが助演女優賞にそれぞれノミネートされ、さらにマーラは本作で『カンヌ国際映画祭』主演女優賞を受賞。美人女優2人の渾身の演技に加え、当時を再現したファッションや美術、フィルムの粒状感を生かした映像もひたすら美しく、熱く切ない恋の陶酔を一層引き立たせている。
『ライチ☆光クラブ』(2月13日公開、R15+指定)は、『先生を流産させる会』(11年)の内藤瑛亮監督、『日々ロック』(14年)の野村周平主演で描くダークファンタジー。黒い煙と油で汚れた蛍光町の廃工場に、夜な夜な集う9人の男子中学生がいた。この秘密基地「光クラブ」を最初に作ったのはタミヤ(野村)ら3人だったが、今ではゼラ(古川雄輝)が突出したカリスマ性と頭脳で他の8人を支配。少年たちは醜い大人を否定し、永遠に美しい世界を実現するため、ロボット兵器「ライチ」を完成させる。だが、ライチを使い美少女カノン(中条あやみ)を拉致したことで、光クラブ内に渦巻く愛憎が暴走し始める。
原作は、劇団「東京グランギニョル」が1985年に上演した舞台をベースに、古屋兎丸が2005年に漫画化した同名作品。センセーショナルかつ過激な作風で知られる内藤監督は、フェティシズムと狂気の際どい狭間に、スチームパンク風の美術、バイオレンスとスプラッターの要素も加味して、独特の世界観を創り上げた。難役のゼラを説得力十分に演じた古川雄輝の存在感、映画初出演・主演『劇場版 零 ゼロ』に続き2作目の映画出演となる中条あやみの清冽な美貌が印象に残る。ボーイズラブの描写やユーモラスな要素もあって、万人向けではないがコアなファンから熱烈な支持を集めそうな怪作だ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『キャロル』作品情報
<http://eiga.com/movie/81816/>
『ライチ☆光クラブ』作品情報
<http://eiga.com/movie/82615/>
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