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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.357

2つの冤罪事件の命運を分けたのは何だったのか? 司法が犯した重大犯罪を暴く『ふたりの死刑囚』

futarinoshikeisyu01ドキュメンタリー『ふたりの死刑囚』より。八王子医療刑務所に収容された奥西死刑囚は檻の中のベッドで最期の日々を過ごした。

 半世紀近くにわたって冤罪と闘い続けた2人の死刑囚がいる。ひとりは再審の扉が開かれて拘置所を出ることを果たしたが、もうひとりは再審を却下され無念の獄中死を遂げた。日本の裁判システムの中でなぜ冤罪は起きたのか。そして、2人の死刑囚の運命を分けたものは何だったのか。独自路線を突き進む東海テレビのドキュメンタリー『ふたりの死刑囚』は昭和36年(1961)に起きた「名張毒ぶどう酒事件」、昭和41年(1966)に起きた「袴田事件」という2つの冤罪事件を追い、司法界が抱える問題点をくっきりと明るみにしている。

 三重県名張市の小さな集落で、ぶどう酒を飲んだ5人の女性が薬物死した「名張毒ぶどう酒事件」の奥西勝死刑囚は冤罪の可能性が極めて高い。物的証拠が不充分な上に、容疑を掛けられた奥西の自白後に村人たちの証言が二転三転している。奥西は「自白は強要された」と主張し、一審は無罪に。だが高裁で逆転判決となり、最高裁で死刑が確定した。35歳で逮捕されて以降、奥西は獄中からずっと無罪を訴えてきた。地元の東海テレビは「奥西さんは冤罪」という立場から、これまでに『重い扉 名張毒ぶどう酒事件の45年』(2006)、『黒と白 自白・名張毒ぶどう酒事件の闇』(2008)、『毒とひまわり 名張毒ぶどう酒事件の半世紀』(2010)とこの事件を題材にしたドキュメンタリー番組を次々と製作してきた。

 ローカル局が社を挙げてキャンペーンを張っても、司法は揺らぐことはなかった。弁護団も粘り強く再審請求してきたが、自白の信憑性を支持する裁判所にことごとく却下されている。東海テレビは仲代達矢が獄中の奥西を演じたノンフィクションドラマ『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』(2013)を放映&劇場公開し、検察側の矛盾点や村人たちの証言のおかしさを訴え、高齢になった奥西を救い出そうと尽力した。だが、2015年10月4日、八王子医療刑務所にて奥西は49年間を獄中で過ごすという悲劇的な生涯を閉じる。享年89歳だった。無辜なる男は自宅に2人の幼い子どもを残したまま、殺人犯の汚名を着せられ、死刑執行の恐怖に毎日さらされた挙げ句に、司法の闇の中で抹殺されてしまった。

 もうひとりの死刑囚・袴田巌は、勤務先の味噌会社の専務家族4人が殺害された強盗殺人・放火事件の容疑者として逮捕され、240時間に及ぶ取り調べによって自白を強要された。決め手となる証拠はなかったが、事件発生から1年2カ月後に既に捜査済みだった味噌工場の味噌樽から血痕の付いた衣類が突如発見され、血液型が袴田と同じだったことから死刑判決が下った。ところが、再審を請求した弁護団が衣類に付いた血痕のDNA鑑定を進めると、途端に検察は態度を変え、それまで隠していた証拠類をすべて裁判所に提出。平成26年(2014)、袴田は死刑の執行を停止され、47年7カ月ぶりに釈放された。

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