“それ”はジワジワと近づいてくる……ファン必見の新感覚ホラー『イット・フォローズ』
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今週取り上げる最新映画は、青春映画の名手・行定勲監督が大胆な仕掛けで観客を驚かせる衝撃作と、斬新な設定で恐怖がジワジワ募る米国製ホラー。いずれもジャンルをクロスオーバーさせて味わいを深めた、創意工夫が光る2作品だ。
『ピンクとグレー』(1月9日公開)は、アイドルグループNEWSの加藤シゲアキが発表した小説を、『GO』(2001年)、『世界の中心で、愛をさけぶ』(04年)の行定勲監督が映画化した青春サスペンスドラマ。人気俳優の蓮吾が、自宅で首を吊った姿で見つかる。第一発見者は、幼い頃からの親友で無名俳優の大貴。遺書に導かれ、蓮吾の伝記を発表して一躍時の人となるが、親友の死で得た名声に苦しむ大貴は、次第に自分を見失っていく。
脚本を担当した若手劇作家・蓬莱竜太と行定監督が、原作を大胆に改変。幕開けから62分後に「世界が一変する仕掛け」を組み込んだ。Hey!Say!JUMPの中島裕翔が映画初出演・初主演。菅田将暉、夏帆、マキタスポーツ、柳楽優弥らが脇を固める。前半の明示的な伏線や「ある種の違和感」から、仕掛けの予想がつく観客も多いだろうが、構造が明らかになる後半もストーリーの重層的な展開で飽きさせない。真相を知ったあとで二度観したくなる人が続出しそうな、巧みに構成された意欲作だ。
『イット・フォローズ』(公開中、R15+指定)は、長編デビュー作がカンヌ映画祭批評家週間で上映された新鋭、デビッド・ロバート・ミッチェル監督の第2作となる新感覚ホラー。19歳の女子大生ジェイは、ある男とセックスをしたことで、「それ(it)」をうつされてしまう。「それ」はうつされた者だけに見える存在で、ゆっくり歩いて近づき、時折姿を変える。捕まると必ず殺されるため、その前に誰かにうつさなければならないが、うつした相手が死ぬとまた自分に戻ってくる。ジェイは妹やその友達の助けを借りながら、追いかけてくる「それ」から逃げようとするが……。
ミッチェル監督が子ども時代の悪夢から着想を得たという、「それ」の設定が抜群にユニーク。スピードは遅く、普通の人の姿をしていて、夜に限らず白昼でもおかまいなしに現れる。設定だけ並べても大して怖くなさそうだが、10代後半の性交渉(および性感染症)に対する恐れ、他者との関係をめぐる漠然とした不安を重ね合わせて、青春の切なさややるせなさも加味した極上のサイコホラーに仕上がっているのだ。監督の出身地でもあるデトロイト市の、打ち捨てられ、時の流れから取り残されたような郊外の町並みや、無機質なシンセサイザーのBGMも、独特の世界観に貢献。J・カーペンター、Q・タランティーノ、E・ロスら名だたる個性派監督からも絶賛された本作は、ホラー好きなら必見、ほかにも一風変わった作品に出合いたい映画ファンにオススメの1本だ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『ピンクとグレー』作品情報
<http://eiga.com/movie/81653/>
『イット・フォローズ』作品情報
<http://eiga.com/movie/82021/>
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