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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.356

世間の常識よ、直下型ブレーンバスターをくらえ!! 障害者プロレス四半世紀の激闘を刻む『DOGLEGS』

doglegs_011991年に旗揚げした障害者プロレス「ドッグレッグス」を長年支えてきた看板レスラーのサンボ慎太郎。愛と勝利をもぎ取ることができるか?(c)Alfie Goodrich

 心の中の万里の長城がドミノ倒しのように音を立てて崩れ落ちていく。天願大介監督のドキュメンタリー映画『無敵のハンディキャップ』(93)にはそのくらいの衝撃を受けた。身障者たちがリングに上がり、障害を抱えた肉体を武器に激突する姿は、観る者の固定観念を粉々にしてしまうパワーがあった。身障者同士の闘いだけで充分刺激的なのに、さらに強烈なのが障害者プロレスのエース・サンボ慎太郎と健常者であるアンチテーゼ北島とのガチンコバトルだった。障害者プロレス「ドッグレッグス」を立ち上げた北島と慎太郎は無二の親友だが、リング上で北島は容赦なく慎太郎をボコボコにした。全身キズだらけになりながらも慎太郎は北島に食らいついた。勝ち負けを超えた感動がそのリングにはあった。だが、『無敵のハンディキャップ』の上映が終わっても彼らの闘いはまだ終わっていなかったのだ。ニュージーランド出身の映像作家、ヒース・カズンズ監督のデビュー作となる『DOGLEGS』は慎太郎たちのその後の激闘の歴史を追い、また障害者レスラーと障害者プロレスに新しい時代が訪れていることを告げている。

 天願監督の『無敵のハンディキャップ』が障害者プロレスの黎明期を追った向こう見ずな青春ドラマだったとすれば、ヒース監督の『DOGLEGS』は障害者プロレス「ドッグレッグス」の20年以上に及ぶ歩み、そして障害者レスラーとその家族たちの生活にもカメラを向けた、よりディープな人生ドラマとなっている。1991年の「ドッグレッグス」創設期から活躍してきたサンボ慎太郎だが、20年の歳月が流れ、オッサン化した感は否めない。かつてシェイプアップされていた肉体もかなり緩んできた。軽度の脳性麻痺を抱える慎太郎は両親と一緒に自宅で暮らし、普段は清掃会社に勤めている。40歳を過ぎた今では職場では年長者として責任を求められるようになった。「ドッグレッグス」の旗揚げ20周年を機に、慎太郎は引退を決意する。障害者プロレスが嫌いになったわけではないが、彼には別の夢があった。心に想う女性に思い切ってプロポーズし、幸せな家庭を築きたい。ごくフツーの結婚をし、ごくフツーの家庭を持つ。障害者にとって、それは大きな夢だった。

 慎太郎が引退を考えるようになった理由は他にもある。悩みを打ち明けられる親友であり、リング上でライバルとして立ちはだかるアンチテーゼ北島の存在だ。もともと福祉介護業界のぬるま湯的な閉塞感をブチ破るために始めた障害者プロレスだったが、すでに北島は二児のパパとなり、慎太郎だけにそうそうかまってもいられない。北島に今でも精神的に依存している状況から自立することも含めての引退宣言だった。慎太郎はラストマッチの対戦相手に北島を指名する。だが、“ボランティア界のヒトラー”北島はすんなりとは受け入れない。「試合に勝ったほうが引退」という勝ち抜け試合にすることを観客の前で逆提案する。これまで一度も北島に勝ったことのない慎太郎は障害者プロレスから卒業できるのか。そして心に想う女性にちゃんと求婚できるのか。慎太郎はリングと私生活でかつてない大試練を迎え撃つことになる。

 障害者プロレスの四半世紀近い歴史を濃縮した超ハードな格闘技ドキュメンタリーとしての要素と慎太郎の恋の行方を追った『テラスハウス』的な甘い要素をたくみにブレンドしてみせたのは、18年間の日本滞在経験のあるヒース監督。流暢な日本語で、ヒース監督は障害者プロレスとの遭遇を語った。

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