“幻の地下施設”松代大本営跡とは!? めくるめく地下の魅力を語り尽くす『地下をゆく』
#本
地下といっても、身近に感じるのは地下鉄ぐらいだろう。主要な交通手段である地下鉄は、全国45路線が網目のように私たちの足の下を走り、のべ1605万人が毎日利用しているとされる。
この『地下をゆく』(イカロス出版)は、そんな我々と切っても切れない地下と、その地下施設ができる工程を全5章110ページにわたって解説するムック本だ。
「驚愕の地下世界」と銘打って、直径30m、深さ70mにおよぶ巨大な立筒が何本と連なる巨大な水槽である、埼玉県春日部市の首都圏外郭放水路にはじまり、栃木県宇都宮市の大谷石採掘場、黒部ダムの地下にある巨大な発電所などを写真入りで紹介。第2章では、首都圏の地下鉄開通から現在までの90年をまとめ、さまざまな店が軒を連ねる地下街特集、駅名の英語表記でみかける“sta.”と“stn.”の違いなど、地下に関連するありとあらゆる事柄を語り尽くす。
地下の魅力は、それだけではない。同書ではマニアも唸る“幻の地下施設”も網羅。
その“幻の地下施設”というのが、長野県長野市にある「松代大本営跡」だ。
内部に仮の皇居も存在するというこの施設は、戦争末期に造られた巨大な地下塹壕で、本土決戦を覚悟した当時の政権幹部らが1944年にのべ300万人を動員して工事を始めたもの。毎日定時にダイナマイトで岩盤を爆破し、その際に出る石クズをひたすら運び出す。石クズは、日本橋から品川にいたる国道1号線沿いに撒くかたちで処分され、その一部は皇居の砂利になった。
結局、この塹壕は一度も使用されることのないまま終戦を迎えたが、現在は地震計が設置され、その情報は国連に提供されている。太平洋戦争で最後の砦となるはずだったこの基地が、国連、いわば連合軍のために運用されるとは奇妙なものだ。
また、テレビ番組などで密かに注目されつつある、「廃駅」も取り上げられている。廃駅というと山奥にあって、駅員が1人もいないひっそりとしたものを想像するが、都内には区画整理の関係で使われなくなった地下鉄の駅が、7カ所存在するという。
かつて存在した、京成本線博物館動物園駅。上野公園の地下を走り、国立博物館や上野動物園の入場客に好んで利用されていたが、ホームが狭く4両しか止められないことと、施設の営業時間に合わせて18時台には閉まってしまうことが原因で、乗客の足が遠のき、97年に営業停止、2007年に完全廃止となった。現在でも当時の時刻表やベンチはそのままに、京成本線上野駅を出て左右の窓からその姿を確認できる。
巻末には産業、軍事施設、鉱山、自然と4つのジャンルに分け、全国28ヵ所の地下施設を解説した「行ける地下カタログ」を収録。
地下を知れば知るほど、昭和を生き抜いた先人たちの息遣いが聞こえてきそうだ。この本を片手に、普段は立ち入ることのできない地下に思いを馳せてみてはどうだろうか?
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