ダニエル・クレイグ版ボンド、最後となるか!? シリーズ最高傑作『007 スペクター』
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今週取り上げる新作映画は、イギリスが誇るスパイアクションの先駆けで世界最長の映画シリーズでもある『007』の最新作と、日本・トルコ合作で両国友好のいしずえとなった2つの史実をドラマチックに描く感動作。年末年始の観賞にふさわしい、見応え十分の2作品だ。
『007 スペクター』(公開中)は、英諜報機関MI6のエリートスパイ、ジェームズ・ボンドが活躍する『007』シリーズの第24作。ボンド(ダニエル・クレイグ)は生家スカイフォールでの攻防で絶命した前任の上司Mの遺言に従い、単身でメキシコ、ローマに渡って危険なミッションを遂行する。MI6の廃止と主要9カ国の情報統合をもくろむ陰謀が進むなか、ボンドは余命わずかの旧敵ホワイトに託された娘マドレーヌ(レア・セドゥー)を伴い、強大な犯罪組織スペクターとその首領オーベルハウザー(クリストフ・ワルツ)を突き止める。
1,500人ものエキストラを動員してメキシコの奇祭「死者の日」を再現したオープニングの流麗な長回しから、「映画史上最大の爆破シーン」としてギネス世界記録に認定されたというモロッコの巨大施設の爆破まで、観客の目を釘付けにするスペクタクルが満載。前作『007 スカイフォール』(2012)からの続投のサム・メンデス監督は、『アメリカン・ビューティー』(1999)、『ロード・トゥ・パーディション』(2002)など人間ドラマに定評があり、ボンドと周辺人物のキャラクターを的確に描写することで、アクション場面とのエモーショナルな相乗効果に成功している。ダニエル・クレイグ版ボンドが本作で最後になる可能性もあり、シリーズのファンならずとも見逃せない屈指の話題作だ。
『海難1890』(12月5日公開)は、日本とトルコの友好の基礎となった海難事故と、95年後のイランでの邦人救出劇を描くヒューマンドラマ。1890年9月、オスマン帝国の親善使節団を乗せたエルトゥールル号が和歌山県樫野崎沖で台風に遭遇し、座礁して蒸気機関が爆発。500人以上の犠牲者が出るなか、医師・田村(内野聖陽)ら住民たちの懸命な救助活動で69人が生き残り、手厚い介護を受けたのち帰国する。時は流れて1985年、イラン・イラク戦争で緊張が高まるテヘランに、邦人300人以上が取り残される。日本大使館から救出を依頼されたトルコの首相は、救援機の追加派遣を決断。知らせを聞いて空港に集まった邦人215人は、ロビーを埋めつくすトルコ人たちが搭乗券を求めカウンターに詰め寄る姿を見て、希望を失いかける。
今から125年前に、海難事故に遭ったトルコ人たちを貧しい漁村の村人たちが献身的に助けた史実と、イランでの邦人の窮状を救ったトルコ人による「世紀を越えた恩返し」は、もっと広く知られるべき両国友好のハイライトだ。監督は『火天の城』(2009)、『利休にたずねよ』(2013)の田中光敏。『マイ・バック・ページ』(2011)の忽那汐里と、トルコ人俳優のケナン・エジェが、それぞれ二役で海難救助編とテヘラン救出編の主要な男女を演じ、2国間の運命的な絆を象徴している。テロや紛争、宗教や難民の問題で世界が揺れる今だからこそ、人種や国境を超えた真心の交流を描く本作から学ぶことは多い。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
「007 スペクター」作品情報
<http://eiga.com/movie/78967/>
「海難1890」作品情報
<http://eiga.com/movie/79893/>
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