安楽死マシンを発明したジイサンに注文が殺到! 尊厳死コメディ『ハッピーエンドの選び方』
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人間の一生は長い長い、ひと幕ものの即興劇だ。喜劇にしろ悲劇にしろ、多くの共演者やスタッフに支えられることで充実した舞台となる。千秋楽を迎えた主演俳優なら誰しも思うだろう。できれば共演者やスタッフにさりげなく感謝の意を示し、自分にふさわしい幕引きにしたいと。イスラエル映画『ハッピーエンドの選び方』は人生のフィナーレを病院の決まり事や法律に縛られることなく、自分たち自身の手で決めることを願うおじいちゃんおばあちゃんたちの奮闘を描いたもの。尊厳死や安楽死という身体がピンピンしている間は考えることが少ない題材に、ユーモアを交えてマジメに向き合った作品となっている。
主人公はイスラエルの首都エルサレムにある老人ホームで暮らすヨヘスケル(ゼーブ・リバシュ)。発明好きで、神さまとお話ができる電話(ボイスチェンジャー機能付きの電話)や一週間分の薬を定時ごとに差し出してくれる自動機械など、人の役に立つのかビミョーなものばかり作っている。愛妻レバーナ(レバーナ・フィンケルシュタイン)も同じ施設で暮らしており、娘もかわいい孫を連れてよく会いに来てくれる。幸せなシニアライフを送っていた。いつもは夫ヨヘスケルの発明に寛容なレバーナだったが、どうしても許せない発明品を夫は作ってしまう。それは自動安楽死装置だった。病院で寝たきり状態で苦しんでいる親友のために作ったもので、本人がスイッチを押せば点滴に麻酔薬が流れ、眠りに就くようにあの世に旅立てるというものだった。
親友夫婦から懇願され、一回きりの使用で終わるはずの安楽死装置だったが、老人たちの間に瞬く間に評判は広まり、ヨヘスケルは頭を抱えることになる。
愛する人をこれ以上苦しませたくない、家族が介護で疲れ果てるのを見るのが耐え難い……。それぞれに切実な事情があり、ヨケスケルは無下に断ることができない。一方、安楽死に反対していたレバーナは認知症の傾向が現われ、日によってヨヘスケルの顔が分からなくなっていく。「この施設では対処できない」と老人ホームからの退去を迫られることに。ヨヘスケルとレバーナ、そして老人ホームで暮らす仲間たちは、自分らにとってのいちばんのハッピーエンドは何かを考えることになる。
尊厳死、安楽死という超シリアスなテーマをコメディとして描いたのは、イスラエル在住のシャロン・マイモン&タル・グラニットという男女2人組の監督ユニット。シャロン監督から持ち掛けられた企画にタル監督が賛同し、共同脚本&監督作として完成させた。シャロン監督は1973年生まれ、タル監督は1969年生まれと、人生のエンディングを考えるにはまだ早い年齢だが……。
シャロン「僕の体験が企画のきっかけになったんだ。以前交際していたボーイフレンドのおばあちゃんがガンを患って80歳で息を引き取ったとき、僕もその場に立ち会っていたんだ。おばあちゃんはようやく苦しみから解放され、安らかな眠りに就けるんだなと思っていたら、心臓が止まってからも30分間ずっと延命処置が続いた。その光景がとても不条理なものに感じられたんだよ。そのことがきっかけで、自分の人生の終わり方は自分で決められるようにしたらどうだろうと、この映画のアイデアを思い付いたんだ」
タル「シャロンからアイデアを聞いて、興味深いテーマだと思ったわ。私も親しい存在を失った経験があったから。私の場合は、かわいがっていた犬なんです。家族同様に世話をしていた犬が二匹いたんですが、どうしても安楽死させなくちゃいけない状況になってしまって。私のこれまでの人生でいちばん辛かった体験。それもあって、命あるものが最期まで生きること、そして別れを迎えることに、映画を通して向き合ってみようと思ったんです」
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