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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 映画『エベレスト3D』批評
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.346

死のリスクを冒してまで人はなぜ登頂に挑むのか? 冒険と人命のカジュアル化『エベレスト3D』

everestmovie01実際に起きたエベレスト多重遭難事故を3D映像で再現。爆発的に増えているエベレスト商業登山の抱える問題点を浮き彫りにしている。

 死のリスクを伴い、家族や周囲の人間に迷惑を及ぼす可能性もある。多額の費用も捻出しなくてはならない。低酸素から呼吸困難に陥り、一歩間違えれば転落死が待ち受けている。凍傷で手や足の指が壊死を起こすことも珍しくない。それでも人は360度の大パノラマが見渡せる神の視点に立ちたいと願う。標高8,848mを誇る世界最高峰エベレストへの登頂は多くの人を魅了する。人はなぜ命の危険を冒してまで、魔境に足を踏み入れようとするのか。1953年の登山家ヒラリーとシェルパのノルゲイによる初登頂から半世紀が過ぎ、今なおミステリアスさに包まれているエベレスト登頂を、映画館で疑似体験させてくれるのが『エベレスト3D』だ。

 かつてはひと握りの探検家か学術調査でしか登ることができなかった聖域エベレストだが、1990年代に入ってから商業登山が盛んになっている。お金さえ払って登山ツアーに参加すれば、一般人でもガイドに引率されて登山することが可能となった。登頂ルートが確立され、登山装備も改良が進み、チベット語でチョモランマ(大地の母神)と崇められてきたエベレストは、ずいぶんと身近な山となった。冒険という言葉もユニクロの商品並みにすっかりカジュアル化された。敷居が低くなったエベレストとはいえ、登山者やシェルパの死亡事故は毎年起きている。その中でも、エベレスト登山史上最悪の遭難事故として挙げられるのが、日本人女性も含む8名の犠牲者を出した1996年のエベレスト大量遭難事故だ。その忌わしい事故を『エベレスト3D』は3D映像&音響で臨場感たっぷりに再現する。

 ニュージーランドの登山ガイド会社アドベンチャー・コンサルタント(AC)を営む登山家ロブ・ホール(ジェイソン・クラーク)はエベレスト商業登山のパイオニアだった。1996年3月、ロブは世界各国から集まった8人の顧客を率いて、標高5,364mのベースキャンプで高地訓練に励んでいた。入念な高地順応を経て、5月にはエベレスト山頂を目指すという計画だった。一人当たりのツアー費用は750万円とかなり高額だったが、AC隊は安全をモットーにした信頼できるツアーのはずだった。
 
 なぜ山に登るのか? 8人のツアー参加者たちは、エベレストに挑む理由を語り合う。日本から参加した難波康子(森尚子)は普段はOLをしながら登山歴を重ね、すでに6大陸の最高峰を極めていた。エベレスト登頂に成功すれば、7大陸全制覇という偉業を達成できる。日本人女性では田部井淳子に続く快挙となるはずだった。ツアー参加者の胸をいっそう熱くさせたのは、イギリスからやってきたダグ(ジョン・ホークス)。郵便局員の給料だけでは足りないので、2つのアルバイトを掛け持ちして費用を捻出した。昨年もエベレスト登頂を目指すも寸前で断念し、今年がラストチャンスと決めている。「自分のような人間でも夢を叶えることができるということを、多くの子どもたちに伝えたい」とダグは熱く語る。彼の費用の一部は近隣の小学校からの寄付だった。参加者たちはそれぞれエベレスト踏破に並々ならぬ意欲を燃やし、ロブは頼もしく感じていた。だが、このことが恐ろしい惨劇を招くことになる。

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