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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.340

八重歯フェチを虜にする!! 民族衣装チャドルに隠された野性『ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女』

thevamp_01ペルシア語での台詞が交わされる、イランを舞台にした初の吸血鬼映画『ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女』。

 中東と西洋の文化が融合した新しい才能が誕生した。イラン系の女性監督アナ・リリ・アミリプールの長編デビュー作『ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女』はこれまでになかった新感覚の映画だ。イランを舞台にした吸血鬼ものと聞くだけで好奇心を掻き立てられるが、ホラー映画のジャンルに収まらないスタイリッシュな映像の美しさとイマジネーションの奔放さに目が釘付けとなる。初めてデヴィッド・リンチやジム・ジャームッシュの作品と出会ったときのような驚きと喜びを感じさせてくれる。そして、イランの民族衣装であるチャドルをまとった少女の、口元から長く伸びた八重歯のような妖しい牙に魅了される。

『ザ・ヴァンパイア』の舞台となるのはイランにある架空の街・バッドシティ。現実の中東と同じように、この街で暮らす人々もイスラムの神ではなく、貨幣経済によって支配されている。夜のストリートにはドラッグの売人や売春婦がたむろし、仕事がない男たちはドラッグをキメることで日々の憂さを晴らしている。そんな荒廃した街に、ひとりの名前のない少女が現われた。ボーダーシャツの上にチャドルをまとい、深夜でも平然と歩いている。彼女は街の人たちのすさんだ心の中にすっと忍び込んできた吸血鬼だった。性悪なドラッグの売人やホームレスを見つけては、次々と餌食にしていく。街の人たちはクズ人間が姿を消しても誰も気にしない。

 スウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』(08)が素晴しかっただけに、それに匹敵する吸血鬼映画は当分現われないかと思っていたが、あっさり覆されてしまった。『ぼくのエリ』が欧州で増え続ける中東からの移民問題が背景となっていたように、『ザ・ヴァンパイア』もドラッグや社会格差といった中東のシビアな世情を反映したものとなっている。表向きは敬虔なイスラム教徒たちが暮らすイラン社会だが、その一方では毎年数百人単位でドラッグ常用者たちが処刑されている。極刑が待っていることを知りながら、刹那的な快楽を求めてドラッグに手を出してしまう人々が後を絶たない。現実社会の歪みが集約された街・バッドシティで、吸血少女はひとりの若者と出会う。『ぼくのエリ』のいじめに苦しむ少年のコドクさが200歳の少女エリを呼び寄せたように、『ザ・ヴァンパイア』の主人公である若者と少女もずっとコドクで、それゆえに強烈に惹かれ合う。

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