正しさとは? 家族とは? 観客に訴えかける! 今週末公開の2作品『ナイトクローラー』『at Home アットホーム』
#映画
今週取り上げる最新映画は、違法行為を働く主人公という共通点がある2作品。とはいえ、報道パパラッチの男が一線を越える過程をダークに描く洋画と、優しく穏やかな空き巣稼業の男が家族を守る邦画、好対照な2本でもある(いずれも8月22日公開)。
『ナイトクローラー』は、『ブロークバック・マウンテン』(2005年)のジェイク・ギレンホール主演で、倫理観の欠如した男がテレビ業界の裏側で成り上がる姿を描くサスペンスドラマ。ロサンゼルスで盗んだ品を売りさばいて日銭を稼ぐルイスは、通りかかった交通事故現場で、スクープ映像専門の報道パパラッチに遭遇する。悲惨な映像がテレビ局に売れると聞いたルイスは、早速ビデオカメラと無線傍受器を入手。事件や事故の現場に駆けつけ、被害者や犠牲者の姿を無遠慮に撮影していく。映像が過激になるほど報酬も高額になることに味をしめたルイスは、さらなるスクープ映像を求めて行動をエスカレートさせていく。
12キロ減量して頬がこけ、目に異様な光を宿したギレンホールの怪演が圧巻。夜間の暗い照明に青白く浮かび上がる表情が死神のようだ。『落下の王国』(06年)、『ボーン・レガシー』(12年)の脚本を書いたダン・ギルロイによる初の長編監督作ながら、ドキュメンタリータッチの演出とテンポよい編集でぐいぐい引き込まれる。刺激的な映像のためなら違法行為もいとわないパパラッチ、それを知りながら特ダネを買う視聴率至上主義のマスコミ、そして彼らと共犯関係にあるのがほかでもない視聴者の私たちであるという、痛烈な風刺がたまらない衝撃作だ。
『at Home アットホーム』は、『ストレイヤーズ・クロニクル』(15年)などの映画化作でも知られる作家・本多孝好の人気小説を、竹野内豊の主演で映画化した異色の家族ドラマ。夫婦に子ども3人の森山家はいつも和気あいあいとして、一見すると普通の家庭だが、5人に血のつながりはない。しかも、父・和彦(竹野内)は空き巣、母・皐月(松雪泰子)は結婚詐欺師、長男・淳(坂口健太郎)も偽造職人と、それぞれが犯罪で生計を立てている。ある日、ターゲットと食事に出かけた皐月の詐欺がばれ、監禁されてしまう。身代金を要求された和彦は、3人の子どもたちと一緒に皐月の救出に向かう。
犯罪で稼ぐ男女と、DVや虐待の被害で苦しんだ子どもたちが出会い、互いをいたわるように穏やかに暮らすという設定が、抜群に面白い。『未来予想図 ア・イ・シ・テ・ルのサイン』(07年)でメガホンを取った蝶野博の監督第2作。製作に吉本興業が入ったこともあってか、所属芸人の板尾創路、千原せいじ、村本大輔が主要キャストに名を連ねるが、シリアスな演技に徹した。坂口健太郎と黒島結菜の若手2人も、陰のある難役を印象的に演じている。疑似家族の試練と救済のドラマを通じて、家族とは何か、人と人の絆とは何かを問いかけてくる感動作だ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
「ナイトクローラー」作品情報
<http://eiga.com/movie/81238/>
「at Home アットホーム」作品情報
<http://eiga.com/movie/80439/>
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