戦後70年に見たい、注目の2作品『ふたつの名前を持つ少年』『この国の空』
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今週取り上げる最新映画は、戦後70年を迎える今夏、戦争をテーマに数多く公開される内外の新作の中でも特に注目すべき2作品。邦画と洋画の違いはあれど、市民の目線から戦争の理不尽さを描く姿勢は共通している。
『この国の空』(公開中)は、高井有一による谷崎潤一郎賞受賞作の同名小説を、ベテラン脚本家の荒井晴彦が18年ぶりにメガホンをとって映画化した人間ドラマ。昭和20年、米軍による空襲が始まっていた東京の杉並で、19歳の里子(二階堂ふみ)は、母(工藤夕貴)と健気に暮らしていた。妻子を疎開させた隣家の銀行支店長・市毛(長谷川博己)の身の回りの世話をするようになった里子は、戦況が悪化する中、結婚できないまま死ぬのではと不安を抱えながら、次第に女として目覚めていく。
役とほぼ同年齢の二階堂が、少女の無垢さの中に女の艶っぽさが芽生える頃の女性を、存在感たっぷりに体現。母役の工藤、途中から同居する伯母を演じた富田靖子と共に、女3人での口論や食事の場面にもリアリティーを感じさせる。若干冗長に感じられる部分もあるが、時代の閉塞感と市井の人々の葛藤がじわじわと迫り、深い余韻を残す1本だ。
『ふたつの名前を持つ少年』(8月15日公開)は、ポーランド人作家ウーリー・オルレブが実話を基にした児童文学『走れ、走って逃げろ』を原作に、短編やドキュメンタリーで実績のあるドイツのペペ・ダンカート監督が映画化した感動作。1942年夏、ポーランドのユダヤ人強制居住区から脱走した8歳の少年スルリックは、森で半年生活した後、凍死寸前で行き倒れたところをヤンチック夫人に救われる。少年の愛らしさと賢さに気づいた夫人は、彼が1人で生きていけるよう「ポーランド人孤児ユレク」としての身の上話を教え込む。少年はユレクを名乗り、ユダヤ人狩りを続けるナチスから必死に逃れながら、寝床と食べ物を求めて農村の家を渡り歩くようになる。
主人公は、700人以上のオーディションを勝ち抜いた双子のアンジェイ・トカチとカミルがシーンによって演じ分けた。時代が生んだ圧倒的な力と過酷な試練を象徴する広大な自然のワイドショットと、ちっぽけな少年の対比が印象的。森暮らしで生き抜く知恵を共有する子どもたち、身の危険を感じながらユレクを助けるポーランド人たちに救われる思いがする。少年の立場だったら、あるいは彼と出会った大人の立場だったら、同じように勇気ある行動ができるだろうか――そんな自問をうながす、力強いメッセージを秘めた作品だ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『この国の空』作品情報
<http://eiga.com/movie/81191/>
『ふたつの名前を持つ少年』作品情報
<http://eiga.com/movie/81913/>
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