ジュリアン・ムーアの圧倒的な演技力は必見! 今週末公開『アリスのままで』
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今週取り上げる最新映画は、アカデミー賞主演女優賞を獲得したジュリアン・ムーアの名演が光るハリウッド作品と、世界遺産の絶景と辛辣な対話の応酬が印象的なカンヌ・パルムドール受賞作。娯楽大作が相次ぎ封切られるゴールデンウイークと夏休みの谷間にあたるこの時期、人間の内面に向き合うドラマ映画をじっくり味わうのも一興だ(いずれも6月27日公開)。
『アリスのままで』は、認知症研究者が著した全米ベストセラー小説を、ジュリアン・ムーア主演で映画化したドラマ。言語学者で大学教授のアリスは50歳になった頃、講演中に言葉を思い出せなくなったり、いつものジョギングコースで道に迷うといった異変を経験。検査を受けたところ、若年性アルツハイマー症と診断される。家族の介護も空しく、徐々に記憶と知識を失い、講義に支障を来たして大学も辞めることになったアリス。ある日彼女は、かつて自分宛てにパソコンに保存した動画メッセージを見つけ、「自分のままで」いるためのある行動を実行しようとする。
言語の権威が言葉と知性を失っていくという残酷かつ劇的な過程を、ジュリアン・ムーアが圧倒的な演技力でリアルに表現。アカデミー賞をはじめ、各国で22の主演女優賞を獲得する快挙となった。自身も難病ALS(筋委縮性側索硬化症)を抱えるリチャード・グラッツァーと、英国出身のウォッシュ・ウエストモアランドが共同で監督。アリス以外の風景がぼやけた映像で、見当識を失ったときの不安と恐怖を表現するなど、優れたカメラワークと編集で登場人物の内面を活写した。夫役のアレック・ボールドウィン、娘役のケイト・ボスワースとクリステン・スチュワートら、家族のアンサンブルも見応え十分だ。
『雪の轍』は、トルコの巨匠ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督が、2014年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドール大賞を受賞した重厚な人間ドラマ。親から莫大な資産を受け継いだ元舞台俳優のアイドゥンは、奇岩群で知られるカッパドキアで洞窟ホテル・オセロのオーナーとして、何不自由なく暮らしている。しかし、慈善活動に打ち込む若く美しい妻や、何かと批判的な出戻りの妹との会話は、互いの神経を逆なで、溝が深まるばかり。家賃を滞納する貧しい一家との関係も、アイドゥンと妻に暗い影を投げかけていく。
世界遺産カッパドキアのエキゾチックな景観と、胎内を思わせる洞窟ホテルの部屋が、人間の本質をむき出しにするかのような会話劇の舞台として秀逸。何もそこまで言わなくても、と思わず止めたくなるほどの攻撃的な批判の応酬が物語を駆動し、雪に刻まれた轍のようにどこまでも平行線をたどる。対話の強度と、秋から冬にかけてのカッパドキアの魅力的な表情が、3時間16分という長尺を感じさせない。ジェイラン監督作で日本での劇場公開はこれが初めてだが、日本の映画ファンにも広く支持されるに違いない傑作だ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『アリスのままで』作品情報
<http://eiga.com/movie/81382/>
『雪の轍』作品情報
<http://eiga.com/movie/80441/>
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