いったい誰が買うのか!? 『妹に教えたい世界のしくみ』が売れている……だと?
#本
書店に行けば、ベストセラー書籍の影に隠れて「いったい、この本は誰が買うんだろう……」という本が、意外なほど数多く並んでいる。もちろん、そんな本のほとんどは、さっぱり売れないまま書店の棚から姿を消してしまうのだが、なぜか重版がかかるほど好調な売れ行きを記録しているのが『図でわかる!妹に教えたい世界のしくみ』(笠倉出版社)だ。「知った気になれる!」「政治宗教の派閥や力関係から経済のしくみまでいいかげんに図表化!」というキャッチフレーズが躍り、pixivでも人気の「米」氏による渾身の妹イラストが描かれた表紙。いったい、どんな人間が、なんのためにこの本を購入してしまうのだろうか……?
う~ん、手にとって実際に本書の内容をひもといてみよう。
「日本政府のしくみ」や、「自民党派閥の系譜」といった、社会の教科書や資料集に掲載されているような役に立つ知識から、「コーヒーの種類」「自己破産のしくみ」「刑務所の一日」といった話のネタや、もしもの時のために使えそうなもの、さらには「大仁田のカリスマのしくみ」「まんがタイムの家系」「エグザイルトライブの構成と変遷」といったトリビアにすらならない情報までが記載されている本書。まさに「世界のしくみ」の名に恥じず、ジャンルもカテゴリーも横断して、あらゆる世界が図表化されているのだ。
例えば「タモリのレギュラー番組年表」のページを見てみよう。そこには『空飛ぶモンティ・パイソン』(東京12チャンネル/現:テレビ東京ほか)から始まり、『お笑いスター誕生!!』(日本テレビ系)を経由し、1982年から『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)、『笑っていいとも!』(フジテレビ系)といった長寿番組が始まるタモリの歴史が手に取るように見えてくる。また、79年を境に、アイパッチからサングラスに衣装を変えたという、かゆいところに手が届く情報もうれしい。いや、役に立つかどうかは別問題だが……。
あるいは「日本のプロレス団体の系譜」というページでは、力道山の「日本プロレス」から枝分かれをして、細分化を繰り広げてきた日本プロレス史を一望できる。プロレスマニアでもない限り、使い道のない知識ではあるが、その歴史が一望できると、途端に理解した感を感じてしまうのはいったいなぜだろうか?
しかし、本書は、あくまでも「いいかげんに図表化」されたものであり、注意が必要だ。ブルースやカントリーから始まり、ビートルズやレッド・ツェッペリン、ガンズ・アンド・ローゼズを経由したロックの歴史が、なぜか「押尾学」に行き着く「押尾学に至るロックの系譜」には、とてつもない違和感を覚えるし、「オーケストラのしくみ」の章では、オーケストラとともに、矢沢永吉や米米CLUBのバンド編成の比較も描かれている……。
本書をめくり終わった後には、なぜか、古今東西のあらゆる知識が身についた気分になれるだろう。「いいかげんに図表化」というキャッチだけでなく、本文中にも「説明不足どころか間違っているところもありますけど、察してください」と書かれているにもかかわらず、その内容は(ネタを除けば)正確であることと、わかりやすいことに異常な執念が注がれている。書店で見かけたら、ぜひ「妹」になって、「世界」の幅広さと奥深さを味わっていただきたい。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])
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