世にも美しい図鑑、ドキュメンタリー『凍蝶圖鑑』ここはセクシャルマイノリティーが集う夢の楽園
#映画 #パンドラ映画館
とても美しい図鑑をめくっているような気分になる。ドキュメンタリー映画『凍蝶圖鑑』は“いてちょう ずかん”と読む。凍蝶とは、草陰に隠れて越冬する蝶のこと。幻想的な美しさと生命のはかなさ、そしてたくましさを感じさせる言葉だ。ただし、『凍蝶圖鑑』は図書館に並んでいるような昆虫図鑑ではない。同性愛者、トランスジェンダー、ドラァグクイーン、サディスト&マゾヒスト、ウェット&メッシー、身体改造愛好家……。ノーマルな嗜好を持つ人たちとは異なる、世に言う“変態さん”たちにスポットライトを当てている。
実に様々な凍蝶たちをビデオカメラで追ったのは、神戸在住の田中幸夫監督。そして田中監督と我々観客を、凍蝶たちが生息するアンダーグランドへと誘うのは漫画家の大黒堂ミロさん。バー経営者、イベンターなど多彩な顔を持つ彼はゲイであることをカミングアウトしており、彼の案内で未知なる図鑑のページが開かれていく。
ミロさんと共に大阪の下町情緒漂う歓楽街を歩く。近くに通天閣がそびえ、ノスタルジックさと温かみを感じさせる商店街が続く。ミロさんいわく、近くのマンションにはおじいちゃんたちがやっているゲイ専門のソープランドが存在するとのこと。ハッテン場として知られるピンク映画館やサウナもある。中学時代のミロさんは実家に自分の居場所がなく、この街でホームレスたちと飲み明かすうちにその道の先輩に声を掛けられ、ゲイに目覚めたそうだ。「ゲイだとか変態だとかじゃなくて、人恋しくて集まっていた人たちが多かったのかな」とミロさんは自身の青春時代を振り返る。
神々しいまでの美しさを感じさせるのは、あずみさんだ。生まれつき顔に血管腫があり、その容姿は否応なく人目を惹く。しかし、あずみさんは外見上が個性的なだけでなく、性同一性障害という複雑なアイデンティティーの持ち主でもある。昼は男性として会社で働き、夜は女装サロンでくつろいだ時間を過ごすあずみさん。そんな彼女をモデルにして、スチール撮影しているのが写真家の谷敦志さん。谷さん自身はノーマルだが、「性的マイノリティーの人たちにいつも助けられてきた」と話す。あずみさんはカメラに撮られることで、また写真家の谷さんはあずみさんを撮ることで、お互いのアイデンティティーが確立されていく。カメラの前で裸になったあずみさんが崇高な存在に思えてくる。
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