ゆるキャラの次は “ゆるパイ” ブーム到来!?『ゆるパイ図鑑 愛すべきご当地パイたち』
#本
“ゆるパイ” の文字に、うっかりあらぬ想像をしてしまった人には申し訳ないが、今回はそっちのパイの話ではない。今月1日、全国各地のご当地パイ約200種類を紹介した『ゆるパイ図鑑 愛すべきご当地パイたち』(扶桑社)が発売され、ちまたでちょっとした話題になっている。
“ゆるパイ” とはなんぞやと思う人も多いかと思うが、これは、著者の藤井青銅氏が、「味」「その土地らしさ」に加え、“ウケる” というベクトルが加わった、魅力的なご当地パイを勝手に命名したもの。パッとイメージが思い浮かばないかもしれないが、その代表的な存在が、静岡県浜松市の名産うなぎを使った「うなぎパイ」だ。うなぎとパイという、まさかの組み合わせながら、サクサクの食感と、ひと口食べるとクセになる香ばしい味わいで、1961年の誕生以来、根強い人気を誇るアノ銘菓である。
と、これだけではウケる要素はないのだが、爆発的ヒットに至るまでのエピソードが実に面白い。発売当初は意外にもイマイチの売れ行きだったのだが、夕食の後に家族みんなで食べてほしい、と願いを込めて付けた“夜のお菓子”というキャッチフレーズに、うなぎが持つ精力増強のイメージが重なり、ムフフ……と勝手に妄想するおじさんたちが続出。その反応にお店も乗っかって、栄養ドリンクのカラーである赤・黄・黒を使って夜っぽいパッケージを変えたところ、大ヒットしたというのだ。
そんな「うなぎパイ」に続けとばかりに、全国各地で「焼あなごパイ」や「淡路島はもパイ」「さんまパイ」「どじょうパイ」などの魚介系のパイが次々に登場し、さらには、「松坂牛」「牛たん入り仙台パイ」「名古屋地どりコーチンパイ」などの肉系、ウマイに違いない「信州りんごパイ」、「山口夏みかんパイ」「伊予柑パイ」「メロンパイ」などのフルーツ系と、観光地とあらば、ともかくパイを――。日本ではそういう流れが生まれた、ようなのである。この本を読んでいると、そのバラエティの多さに、日本人はこれほどまでにパイを求めていたのかと、驚かされる。
また、個人的に非常に気になったのが、藤井氏がすべてのパイに対してつけている、ツッコミどころ満載のキャッチ。ラ・フランスを使ったパイには「フランスにはないのよ」、その隣に紹介されている、ルレクチェのパイには「フランスにはないのだ」と、全体的にかぶった内容が妙に多かったり、京都産の楓の形をしたパイには「そうだ、京都行こう…と思うパイ」、そばの実パイには「“おか~さぁ~ん!”と叫びたくなるパイ」など、ネタに詰まったのか、“どうした!?”と聞きたくなる、絶妙ないい加減さで書かれた内容が多く、じわじわと笑いが込上げてくる。
ほ~、全国にはこんなにもパイが……とただ感心しながら見るも良し、何かの機会に小ネタで使うも良し、旅行や出張などでどこかへ行った時の土産の参考にするのも良し、なんとなく手元に置いておきたくなる本である。
(文=上浦未来)
●ふじい・せいどう
1955年生まれ。作家、エッセイスト、脚本家。「第1回星新一ショートショートコンテスト」入選をきっかけに、作家兼放送作家に。『夜のドラマハウス』『オールナイトニッポン・スペシャル』『青春アドベンチャー』など、書いたラジオドラマは数百本に上る。伊集院光と共に、ヴァーチャルアイドル「芳賀ゆい」を創り、腹話術師いっこく堂のデビューもプロデュース。「東洋一」の謎を追った『東洋一の本』(小学館)、変な名前を研究した『あんまりな名前』(扶桑社)、実話に基づいた小説『ラジオな日々』(小学館)など著書多数。
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