惚れた女の数だけ傑作残すウディ・アレンみたい 今泉力哉監督の新感覚コメディ『サッドティー』
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心がちょっとささくれたとき、さっと飲むお茶。それがサッドティーだ。本気で交際していた相手との別れは、体が引き裂かれそうなほど辛い。そんなときは、ひとり酒をあおって失恋の痛みが癒えるのをじっと待つしかない。では、恋人と呼ぶにはまだ早い段階の相手との別れは全然辛くないかとゆーと、思っていた以上に動揺している自分がいることに気づく。相手の存在がすでに心の中にまで侵蝕していたらしい。とは言っても、酒を飲むにはまだ日が高い。そんなとき、さっと飲むのがサッドティーだ。ほんの少しだけ、気持ちが軽くなった気がする。“ダメ恋愛映画の旗手”今泉力哉監督の恋愛群像劇『サッドティー』は、今までの恋愛映画が描くことのなかった様々なタイプのビミョーな恋愛感情が実に軽妙に描き出されている。
映画の世界で描かれるラブストーリーは、主人公の男女が障害を乗り越えて結ばれるハッピーエンドか、もしくは永遠の別れが待っている号泣系のラストシーンであることがほとんど。白か黒かの世界だ。だが、人間がA型、O型、B型、AB型の血液型4種類では到底分類できないように、人間の抱く恋愛感情はもっと複雑で多岐に及んでいる。「全然タイプじゃなかったけど、夏服に着替えた途端にときめいてしまった」みたいな小さな感情が膨れ上がって、いつの間にかその子のことが気になって仕方なくなってしまう。この感情はどうにも抑えがたい。『サッドティー』に登場する12人の男女は、それぞれ茶碗にぷかぷかと浮かぶ茶柱のようにプラトニックな恋愛感情とよこしまな浮気願望との狭間を漂い続ける。
『サッドティー』の軸となる人物は、二股交際している映画監督の柏木(岡部成司)。いつも変な寝ぐせヘアなくせに、女性にはよくモテる。同棲している恋人の夕子(永井ちひろ)がいながら、洋裁学校に通う緑(國武綾)のアパートにちょくちょく泊まる。といっても柏木は肉食野獣系ではなく、女性から「つきあって」と迫られると断るのが面倒という優柔不断男。柏木には高校以来の友人・朝日(阿部隼也)がいるのが、朝日は10年前に引退したマイナーなアイドル・いちごちゃんのことを一途に想い続けている。彼女が芸能界を去った記念日になると毎年海に出掛けて花束を捧げる儀式を欠かせない。かなり変わったヤツだが、柏木はひとりの女性を想い続けられる朝日のことがちょっとだけ羨ましい。一方、芸能界を辞めたいちごちゃん=夏(内田慈)はダメ男を渡り歩く人生。ようやく結婚することになった相手はDV男(吉田光希)。夏はネットで自分のことを今も想い続けているファンがまだいることを知り、結婚前に一度逢ってみようと思い立つ。浮き足状態の男たち女たち。みんないい年齢だが、未だに「ちゃんと好きになる」ことがよく分からない。そんな男女の恋愛曼荼羅がカフェの店員・棚子(青柳文子)の目線から描かれる。
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