「売春」と「救済」の同居……“出会い系”に救いを求める、シングルマザーの実態
#本
ルポライター鈴木大介の最新刊には、『出会い系のシングルマザーたち』(朝日新聞出版)というセンセーショナルなタイトルが付けられている。犯罪報道などによって、未成年による援助交際の温床というイメージが先行する出会い系サイト。しかし、イメージとは裏腹に、ここで体を売るほとんどが成人女性であり、本書が描くのは、生活に困窮する「シングルマザー」たちが出会い系サイトを通じて売春を行う実態だ。
自ら出会い系サイトに登録し、15名の「出会い系シングルマザー」たちを調査した鈴木。その実態は、本当に現代日本の出来事なのかと疑いたくなるような貧困に満ちている。例えば、こんなふうに。
中井沙耶子さん(仮名)は、小学校2年生の娘を育てている。毎日、病気で寝込んでいる母親の世話をしながら、娘を学校へ送り出している。夫との離婚後、中井さん自身もうつ病による睡眠障害を発症し、看護師の仕事を退職せざるを得なくなった。中井さん名義のカードで借金を重ねて別れた夫からは、当然、慰謝料も養育費も振り込まれることはない。そんな中井さんが携帯をいじっていてたどり着いたのが出会い系サイトだった。彼女は、わずか1万円で自分の体を売った。そして、いまや出会い系サイトに募集をかけるのが日課になっているのだ……。彼女にとって、唯一の支えは愛娘の彩ちゃんしかいない。
「彩だけが救い。死にたくて、でも彩がいるから死なない。彩はこんな私を見て育っているのに、どうして? って思うくらい手間がかからなくていい子に育っている」
「比較的恵まれたポジション」と鈴木が書く中井さんですら、こうなのだ。頼る親もなく、資格も持たないシングルマザーたちは、もっと過酷な状況に追い込まれている。
では、彼女たちがこの貧困を抜け出すことはできないのだろうか? 鈴木は、さまざまな可能性を検証する。けれども、民生委員に相談をすれば、近所の人に売春の事実が知れわたる危険性がある。精神病を抱えていたり、子どもの面倒を見るために新たな仕事を見つけることは難しい。もしも、生活保護を受けていることが知られたら、子どもはたちまちイジメの標的になってしまうだろう。多くのシングルマザーにとって、最後のセーフティネットとなっているのが実家の存在。しかし、それすらも持たないなら……?
だが、本書を読み進めていくと、決して金だけが理由ではない「出会い系シングルマザー」の実態もまた浮かび上がってくる。風俗店のように、組織を後ろ盾にできない売春環境で、彼女たちが危険な目に遭ったことは一度や二度ではない。では、なぜ彼女たちは「出会い系サイト」というツールを使うのだろうか?
実は、彼女たちには「売春をしている」という意識は薄い。前述の中井さんは、1万円を「もらった」ではなく「借りた」と表現する。鈴木が接した出会い系シングルマザーのうち、2割にも及ぶ人が、そのきっかけを「寂しかったから」と語っているのだ。いい大人が、寂しさを埋めるために体を売る……。いったい、それはどういうことなのか?
シングルマザーの多くが、離婚を経験している。それは女性にとって、精神的に負担がかかることだ。その上、生活苦やうつ病、子育ての悩みなどが加わってくる。彼女たちの話を聞いてくれるのは、「出会い系の男」しか残っていなかったのだ。
「逢えば話を聞いてくれるからね。子供のこととか精神科に患ってることとか、身近な人だったり、失いたくない人だったら逆に話せないことが、出会い系で逢った男になら話せるというのもありますよ。(略)もしかしたら全部包容力でカバーしてくれるような男がいるかもって気持ちもある」
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