ジャーナリスト青木理が語る鳥取連続不審死事件──毒婦と地方格差と劣化する刑事“地方”司法の問題点
#事件 #本 #凶悪犯罪の真相
2009年、婚活サイトなどで知り合った男性3人を自殺に見せかけ殺害したとして、昨年4月に1審で死刑判決を受けた木嶋佳苗被告(昨年10月より控訴審が始まった)。セレブ生活に憧れ、毒婦などと形容される彼女は、ワイドショーをはじめとするマスコミでも話題となり、多数の本が出版されるほどの注目が集まった。
ちょうど同じ頃、鳥取では木嶋と年齢もほぼ同じ30代後半で、容姿も似た上田美由紀という女性のまわりで数人の男性が不審な死を遂げていた。いわゆる、鳥取連続不審死事件である。
木嶋とは違い、美由紀はひとりで5人もの子どもを育てるためスナックで働き、決してセレブ生活を夢見ていたわけではなかった。だが、彼女と交際した男性の中には数百万円を貢ぐため借金をし、家庭を捨てた者までいた。彼女のまわりで不審な死を遂げた6人のうち2人の死についてだけが、強盗殺人罪などで立件されている。
美由紀と面会を重ね、鳥取の地を地道に取材してきたジャーナリストの青木理氏が13年11月、事件を追った『誘蛾灯 鳥取連続不審死事件』(講談社)を上梓した。その青木氏に「美由紀とはどんな女か?」「都会と地方の格差や貧困問題、そして刑事司法」、さらに「今後の裁判の見通し」について話を聞いた。
──木嶋佳苗の事件と鳥取の事件の上田美由紀は、よく比較対象になると思います。木嶋に関して言えば、木嶋の顔を初めて見たとき、どうしてこんな女にダマされるんだろうと多くの男性は思ったはずです。実際に面会し、美由紀はどんな容姿でしたか?
青木理(以下、青木) 人間の恋愛感情なんて本来、相手方の美醜など無関係でしょう。もちろん、ものすごく魅力的なら初対面のときに一瞬ハッとなるかもしれないけど、心の底から好きになったり、嫌いになったりするのに美醜は基本的に関係ないと私は思う。それを前提とした上でも、率直に言って美由紀は魅力に欠ける女でした。その上、付き合った男性にはすぐに妊娠したと告げ、中絶費や養育費を要求する。ほかにもさまざまな名目で金銭をせびり取ろうとする。払わなければ自殺や自傷をちらつかせる。さらには交際相手の実家にまでウソで近づき、金をむしり取る。取材してみると美由紀は、病的ともいえるほどの虚言癖者でした。それなのに読売新聞の記者や鳥取県警の刑事までが美由紀に惹かれ、妻子を捨て、何百万円ものカネを貢いだ挙げ句に不審死していたんです。
でも、実際に付き合っていた男たちに話を聞くと、美由紀は熱烈な愛の文句を綴ったラブレターを何通も送ってきたり、意外にカワイイところもあって礼儀正しかったそうです。5人の子どもを女手ひとつで育てているのを目の当たりにし、情が湧いたと振り返る男も多かった。だからといって家族まで捨てて何百万円も貢ぐというのは理解できませんが、そんな美由紀に惹かれた男たちの気持ちが分からないでもありませんでした。
──下世話な話ですが、性的に素晴らしいということではないのでしょうか?
青木理氏(以下、青木) 美由紀と付き合っていた男には幾人も話を聞いたけれど、そう言う人はひとりもいませんでした。むしろフツウだって(笑)。
──取材対象として、木嶋ではなく、美由紀の事件のほうを選んだのはなぜでしょう?
青木 当時、木嶋佳苗の事件にメディアが大騒ぎしていたでしょ。元来がへそ曲がりの私は、まったく興味をそそられなかった。むしろ、バカ騒ぎするメディアを冷めた眼で見ていたし、同じ時期に発覚した鳥取の事件も似たようなものだろうと思っていたんだけど、ノンフィクション誌「g2」(講談社)の編集者から「木嶋の事件は別の書き手に依頼したんだけど、あんた、鳥取の事件を取材して短いルポを書いてみないか」と言われてね。鳥取の事件は木嶋の事件に比べて全然騒がれていなかったし、へそ曲がりの私には、何か心に響く提案だった。それに鳥取市には行ったことがなくて、一度行ってみたいと思ってたし(笑)。その程度の理由で、取材を始めたんです。
でも、取材するうちにのめり込みました。メディアがどうして事件取材に熱中するかといえば、面白いからということももちろんありますが、事件の背後に時代の臭いや社会の歪みが見えてくるというところに醍醐味があるからでしょう。鳥取の事件と同じ頃に起きた木嶋の事件は、「婚活」とか「出会い系サイト」とか「セレブ」とか、一見いまの時代を象徴しているキーワードがちりばめられていたからメディアは飛びついた。でも、それはなんだか表面的で薄っぺらく、本当の意味での時代の歪みを象徴しているようには、私には思えなかった。ところが鳥取で実際に取材してみると、美由紀の事件のほうがよほど、現代日本に巣食う深刻な病が底流で脈打っていると感じましたね。
──それは、どういうことでしょうか?
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