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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.247

“アニメーションは呪われた夢”なのか? スタジオジブリの1年間を密着撮影した『夢と狂気の王国』

yumetokyoki.jpg宮崎駿、鈴木敏夫、高畑勲という強烈な3つの個性の化学反応を推進力とするスタジオジブリの1年を追った『夢と狂気の王国』。(c)2013 dwango

 日本アニメの黄金時代は終わりを告げたのか? 国民的アニメ作品を次々と生み出してきたスタジオジブリは今、大きな転換期を迎えている。アニメーション製作に人生を捧げた自身の姿を投影した『風立ちぬ』を最後に宮崎駿監督は引退を表明、高畑勲監督の『かぐや姫の物語』(11月23日公開)も東映動画作品やTVシリーズ『アルプスの少女ハイジ』などを彷彿させる日本アニメ史の集大成的な作品に仕上がっている。2013年は宮崎駿、高畑勲という両巨匠の作品が同年公開されたメモリアルな年として記憶されるだろう。鈴木敏夫プロデューサーが両巨匠の劇場作品を作るために奔走したスタジオジブリはその当初の目的を果たしたことになる。そんなひとつの時代の節目を見届けたのは、ドキュメンタリー映画『エンディングノート』(11)でデビューを果たした砂田麻美監督だ。2012年秋から1年間近く、砂田監督はスタジオジブリに通い続け、『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』の製作過程を追った。日本人が大好きな国民的アニメは、“呪われた夢”と“明るい狂気”によって命を吹き込まれていることを砂田監督は『夢と狂気の王国』の中で明かしていく。

 緑に覆われたメルヘンの世界に登場する洋館のようなスタジオジブリの外観から映画は始まる。敷地内には社員用の保育園が併設されており、宮崎駿監督は子どもたちに手を振るのを日課にしている。スタジオの屋上は庭園となっており、美しい夕焼けを眺めることができる。そしてフロアには物づくりの現場らしい活気が満ちている。ある女性スタッフは「会社というより、学校みたい」と笑顔で話す。スタジオジブリはとても環境の整った職場のようだ。だが、別の女性スタッフはこうも言う。「犠牲にしても得たいものがある人はいいけど、自分の中に守りたいものがある人は長くいないほうがいい」と。宮崎駿監督は自分に厳しいが、スタッフにも厳しい。巨匠の要求するレベルに応えるのは生半可なことではない。巨匠の周辺にはとてつもない引力が働き、正しい距離を保ち続けるのは困難を極める。黒澤明、今村昌平……過去の巨匠たちにも多くの優秀な人材が仕えたが、そこからオリジナリティーある監督として独り立ちした人間は数少ないことをふと思い出させる。

 巨匠・宮崎駿との距離をはかることに、どうしようもなく苦しんでいるのは宮崎吾朗監督だろう。宮崎吾朗監督と新作映画の担当プロデューサーが打ち合わせる席に鈴木プロデューサーも同席するが、新作の企画は難航を極めているようだ。『ゲド戦記』(06)『コクリコ坂から』(11)を興行的に成功させた宮崎吾朗監督だが、今も自分の進んでいる道に葛藤を抱えている。自分の感情を吐露する宮崎吾朗監督を、鈴木プロデューサーは「今回、宮崎駿さんも高畑勲さんも作りたがらないのを、僕が無理矢理作らせているんだよ」と笑顔で言い含めようとする。父とは違う道を歩んできた宮崎吾朗監督をアニメ製作の世界へ引き込んだ鈴木プロデューサーがまるでメフィストフェレスのように感じられるではないか。一見、明るく平和そうに見えるジブリ内には激しい風がごうごうと吹き荒れている。

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