『スラムドッグ$ミリオネア』ダニー・ボイル監督の新たな挑戦『トランス』
#映画
今週も数多く封切られる最新映画の中から、今回は犯罪を題材にした個性的な2作品を取り上げたい。名画強盗と失われた記憶をめぐる緊迫した心理劇と、殺し屋稼業の少女2人組を描く一風変わった活劇。日常をしばし忘れ、危うくも魅力的な世界に浸ってみよう。
公開中の『トランス』(R15+)は、『スラムドッグ$ミリオネア』(08)でアカデミー賞8部門受賞のダニー・ボイル監督が、『ウォンテッド』(08)のジェームズ・マカボイ主演で描くスタイリッシュなスリラー。競売人のサイモン(マカボイ)は、ギャングと手を結んでオークション会場からゴヤの名画を盗み出す。だが、計画にない行動をとったため首謀者のフランク(バンサン・カッセル)から殴り倒され、病院で目覚めたときには絵の隠し場所を含む記憶の一部を失っていた。フランクは催眠療法士エリザベス(ロザリオ・ドーソン)を使い、サイモンの潜在意識から絵画のありかを探ろうとする。
サイモン、フランク、エリザベスという3者の関係がストーリーの進行と共に二転三転し、キャラクターに対する観客の印象もがらりと変わる。催眠術にかかった状態(トランス)の記憶と妄想の入り混じった映像にまでしっかりと伏線が張られ、終盤ですべての謎が明らかになるシークエンスの衝撃はまさに圧巻。結末を知った後で、もう一度見返したくなる人も多いはず。オスカーを獲得しロンドン五輪開会式の総監督も務めるなど、50代にして巨匠の風格さえ漂うボイル監督だが、新たな表現にチャレンジする姿勢は本作でも健在だ。
『天使の処刑人 バイオレット&デイジー』は、『つぐない』(07)のシアーシャ・ローナンと『旅するジーンズと16歳の夏』(05)のアレクシス・ブレーデルが、ティーンエイジャーの殺し屋に扮したアクションドラマ。清楚な尼僧服に身を包み拳銃で大男たちを次々に射殺するバイオレット(ブレーデル)とデイジー(ローナン)。新作ドレス欲しさに引き受けた次の依頼は、アパートで一人暮らしのマイケル(ジェームズ・ガンドルフィーニ)を殺すというごく簡単な仕事のはずだった。だが、マイケルが別の集団にも命を狙われていたことから、2人は思わぬ事態に巻き込まれる。
『プレシャス』(09)でアカデミー脚本賞を受賞したジェフリー・フレッチャーが、オリジナル脚本で監督デビューを飾った本作。ファッションと甘いお菓子が大好きで、名前の通り花のように可憐な十代の乙女たちが、表情を変えずに銃をブッ放し「バイオレンス&デス」を繰り広げるギャップが楽しい。撃ち殺したばかりの死体に乗って踊ったり、浴槽に集めた死体の上でシャワーを浴びたりと、無邪気さと残酷さが奇妙に同居したシーンの数々が不謹慎な笑いを誘う。今年6月に心臓発作で急死した名優ジェームズ・ガンドルフィーニの演技もしみじみと味わい深い。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『トランス』作品情報
<http://eiga.com/movie/78755/>
『天使の処刑人 バイオレット&デイジー』作品情報
<http://eiga.com/movie/78059/>
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