ずっしりとした夏の“重み”を感じさせる、歴史サスペンス『終戦のエンペラー』
#映画
今週紹介する新作映画は、日本の1945年と、米フロリダ州の1960年代末、それぞれの特別な夏の出来事を緊張感たっぷりに描き出す2本。ずっしりとした夏の「重み」が印象に残る、見応え十分の力作たちだ(いずれも7月27日公開)。
『終戦のエンペラー』は、『真珠の耳飾りの少女』(2003)のピーター・ウェーバー監督が、太平洋戦争直後の日米の史実をもとに描く歴史サスペンス。日本が連合国に降伏し終戦を迎えた1945年8月、マッカーサー元帥率いるGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が東京に置かれ、米軍統治が始まる。マッカーサーは秘書官のフェラーズ准将に対し、戦争における天皇の役割を10日間で探るよう命令。日本文化を研究し、戦前に日本人留学生のアヤと恋仲だったフェラーズは、東條英機、近衛文麿、木戸幸一ら要人を相手に困難な聞き取り調査を続けるかたわら、消息を絶ったアヤの安否を秘かに調べる。
昭和天皇とマッカーサーが並んだ有名な写真。あのツーショットが実現するまでの歴史秘話が解き明かされる。マッカーサー役にハリウッドスターのトミー・リー・ジョーンズを据え、日本人キャストも西田敏行、中村雅俊、夏八木勲、片岡孝太郎と豪華。クレジット上の製作国はアメリカだが、原作は岡本嗣郎のノンフィクション作品。製作陣にも日米のプロデューサーが名を連ねることから、実質的な日米合作と言っていいだろう。とはいえ、ニュージーランドに再建された空襲後の東京の街並みをはじめ、ハリウッド映画と遜色ないスケール感と質感で終戦後の日本の風景と歴史を動かした人々のドラマがリアルに再現されているのは感無量。アヤ役に抜擢された初音映莉子の清新な魅力が映画にうるおいをもたらしている。
『ペーパーボーイ 真夏の引力』(R15+)は、ザック・エフロンとニコール・キッドマンが危険で刺激的な関係にのめり込む男女を演じた問題作。1969年、フロリダで暮らす青年ジャック(エフロン)は、問題を起こして大学を追われ、父が経営する地方新聞社の配達仕事だけで無気力に過ごしていた。ある夏の日、大手新聞社に勤める兄ウォード(マシュー・マコノヒー)が、4年前の殺人事件の死刑囚をめぐる冤罪疑惑の取材で帰省。ジャックはウォードの調査を手伝う過程で、死刑囚の婚約者で謎めいた美貌のシャーロット(キッドマン)と出会い、心を奪われる。混迷する事件調査、兄の衝撃的な秘密、そしてシャーロットへの恋が、ジャックの人生を大きく変えていく。
『プレシャス』(09)のリー・ダニエルズ監督が、米作家ピート・デクスターのベストセラー小説を映画化。差別や偏見が色濃く残る60年代末の南部フロリダを舞台に、じっとり汗ばむ空気感、徐々に高まる焦燥と狂気、抑えがたい感情と欲望を、粗くぎらついた映像で描き出した。知的で貞淑な役どころも多いニコール・キッドマンだが、今作は『誘う女』(95)、『アイズ ワイド シャット』(99)に連なるエロい美魔女系。エフロンが演じるイケメン童貞、ジョン・キューザック扮する異様な死刑囚とキッドマンが繰り広げる危険な愛の行方から目が離せない。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『終戦のエンペラー』作品情報
<http://eiga.com/movie/78092/>
『ペーパーボーイ 真夏の引力』作品情報
<http://eiga.com/movie/58154/>
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