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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.231

“毒殺未遂事件”を培養して生み出した問題作! システムを観察せよ『タリウム少女の毒殺日記』

tariumushojo1.jpg実在の事件をモチーフにした『タリウム少女の毒殺日記』。東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門作品賞を受賞したが、嫌悪感を示す声も少なくない。

 狼はトナカイを殺すが同時にトナカイを強くもする。狼が居なければ群れ全体に弱さの毒が回り、やがてその群れは滅亡する―。2005年、実の母親に劇薬である酢酸タリウムを投与し、衰弱していく様子を観察し続けた16歳の女子高生が殺人未遂罪で逮捕され、社会に大きな衝撃を与えた。冒頭の一文はその女子高生が日記としてブログに綴っていたものだ。異色ドキュメンタリー『新しい神様』(99)で劇場デビューし、前作『PEEP“TV”SHOW』(03)でリアルとフィクションの境界の曖昧さを描いた土屋豊監督はこの文章にインスピレーションを受け、架空のキャラクター“タリウム少女”を主人公にした劇映画『タリウム少女の毒殺日記』を作り上げた。カエルの解剖実験や金魚をホルマリン漬けにするシーンを盛り込む一方、タリウム少女が既成のシステムを抜け出そうと試行錯誤する姿をポジティブに捉えた新感覚の映画となっている。劇薬を希釈することで良薬が生まれるように、土屋監督は実在の事件の中から人間の新しい可能性を見出そうとしている。

 『タリウム少女の毒殺日記』はフィクションパートとドキュメントパートの多重構造となっている。フィクションパートでは、タリウム少女(倉持由香)が学校で同級生たちの壮絶なイジメに遭っている。だが、タリウム少女はどんなに悲惨な状況にあっても、常にクールだ。ドン底状態にある自分自身を客観視し、解剖したカエルや飼育しているモルモットと同じように、自分がいる社会そのものを冷静に見つめようとする。母親(渡辺真起子)に毒薬を投与する様子をブログに綴る傍ら、気になるニュースサイトや動画をクリックする。ドキュメンタリーパートとして実在する人々が次々に登場し、それぞれ斬新かつ個性的な自説を唱える。広島大学大学院理学研究科の住田正幸教授は交配によってスケルトン状に内臓が透けて見える“透明ガエル”を誕生させた。この研究が進めば、科学の殉教者として解剖実験の犠牲となる動物の数は激減するはずだ。全身にピアスを施した身体改造アーティストのTakahashiは体そのものが生きたアートとして眩しく輝いている。クローン人間の実験でかつて話題をさらった非宗教団体「ラエリアンムーブメント」も登場する。「日本ラエリアンムーブメント」の伊藤通朗代表によると、クローニング技術によって人間を完全に創造できるようになれば、神様は存在しないことも同時に証明でき、世界から宗教戦争がなくなるという。動物、そして人間の肉体を変えていくことで社会そのものを変えていこうというブラボーな人たちの理論的な熱気が成長過程にあるタリウム少女の心を揺さぶっていく。

 “タリウム毒殺未遂事件”をモチーフにした本作の企画意図を土屋監督はこう語る。

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