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鬼才デビッド・クローネンバーグの長男が監督デビュー!『アンチヴァイラル』

antiviral.jpg(C) 2012 Rhombus Media(Antiviral)Inc.

 今週紹介する新作映画2本は、コミカルなタッチの邦画とSFスリラー風味の洋画で、ともに不条理な世界で他者との関わりからアイデンティティーを問い直すというテーマが予想外の展開を見せる(いずれも5月25日公開)。


 『俺俺』は、大江健三郎賞を受賞した星野智幸の同名小説を、『亀は意外と速く泳ぐ』(05)、『インスタント沼』(09)の三木聡監督が「KAT-TUN」の亀梨和也を主演に迎えて映画化。郊外の街に住み家電量販店で働く均(亀梨)は、満たされないまま平凡な毎日を過ごしていたが、たまたま拾得した他人の携帯電話でオレオレ詐欺をはたらいてしまう。ところが、金を振り込んだ女性は均を見ても「自分の息子だ」と言い、実家を訪ねれば自分と同じ顔をした「別の俺」がいた。こうして次第に「俺」が増殖し、やがて「俺」同士が互いを削除し合う事態に発展する。

 亀梨が演じ分けた「同じ顔の俺」は実に33人! メイクとCG合成を駆使し、「巨乳ボディコンの俺」「全身タトゥーの俺」など“濃いキャラ”たちがウジャウジャと同じフレームに収まっている図はまさにカオス。顔だけでなく好みや考え方まで同じな「俺」たちが意気投合するほのぼのした序盤から、増殖しすぎてシリアスに転調する中盤、そして原作小説とは異なる終盤まで、「亀梨だらけ」の強烈な映像と相まって文字通り目が離せない。共演に内田有紀、加瀬亮、ふせえり、岩松了ほか。オレオレ詐欺から「振り込め詐欺」、さらに「母さん助けて詐欺」と呼称が変遷する比較的新手の犯罪を起点としつつ、人間関係と個性が希薄化する現代の社会問題をシニカルかつユーモラスな不条理劇に昇華させた原作小説もオススメだ。

 もう1本の『アンチヴァイラル』は、鬼才デビッド・クローネンバーグの長男、ブランドン・クローネンバーグの長編監督デビュー作。憧れのセレブとの一体感を求めるマニアたちのニーズに応え、セレブが患った感染症のウイルスを注射するクリニックが存在する世界。そうしたクリニックで働く注射技師のシドは、厳しいセキュリティをすり抜けるため、希少価値の高いウイルスを自身に注射し、闇マーケットに横流していた。そんなある日、完璧な美貌でウイルスの販売も群を抜く超セレブ、ハンナから採取した血液を自らに注射したシドは、突然幻覚に襲われ失神。意識を取り戻すと、テレビのニュース番組はハンナが病死したことを報じていた。ハンナを絶命させたウイルスを唯一保有するシドは、裏社会のコレクターたちから標的にされてしまう。

 今なお作家性の強い映画を撮り続けている父デビッドの、特にキャリア中期の『スキャナーズ』(81)、『ザ・フライ』(86)、『戦慄の絆』(88)といった作品群に顕著な人体の変形と破壊、筋骨や内臓のグロテスクな描写、倒錯した嗜好といった要素が、本作に見事なまでに受け継がれている。2012年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品されたことでも話題に。主演ケイレブ・ランドリー・ジョーンズの病的な風情、ヒロイン役サラ・ガドンのクラシカルな美貌が作品世界に説得力を与えている。セレブに近づきたいと願う個人の心理と、商品として消費されるセレブの危うい関係性に鋭くメスを入れた問題作だ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)

『俺俺』作品情報
<http://eiga.com/movie/58213/>

『アンチヴァイラル』作品情報
<http://eiga.com/movie/78307/>

最終更新:2013/05/25 18:00
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