本当にあった、ロス市警と大物ギャングの抗争『L.A. ギャング ストーリー』
#映画
今週取り上げる新作映画2本は、約半世紀前の「戦い」が身近に存在していたアメリカと日本を舞台に、男たちと女の生きざまを生々しく刺激的に描写した意欲作だ。
5月3日に封切られる『L.A. ギャング ストーリー』(R15+)は、1949年のロサンゼルスで、街を支配するギャングに立ち向かう警察官らの姿を描いたクライムアクション。大物ギャングのコーエン(ショーン・ペン)は、ドラッグや売春、賭博仲介で得た金と暴力で、ロス市警や政治家をも意のままに操り、勢力を拡大していた。しかし、賄賂になびかず正義に燃えるオマラ巡査部長(ジョシュ・ブローリン)ら6人の警察官が立ち上がり、コーエンの組織を撲滅する命がけの「部隊」を結成。警官の身分を隠し、令状を持たないまま盗聴、麻薬取引の妨害、組織の拠点の急襲などあらゆる手段で戦いを挑む。
監督は初メガホンの『ゾンビランド』(09)で一躍注目を集めた新鋭ルーベン・フライシャー。容赦ないバイオレンス描写の中にもシニカルなユーモアを込め、独特な味わいを醸し出す。警察官がギャング顔負けに銃をぶっ放し悪党に鉄拳制裁を下す戦いぶりは圧巻だが、原作小説が史実にゆるやかに基づくというから二度驚かされる。物語としては、アル・カポネに立ち向かう若き財務官らの活躍を描いた名作『アンタッチャブル』(87)に近いものの、暴力表現は本作のほうが過激。ライアン・ゴズリングが演じる警察官と、エマ・ストーン扮するコーエンの情婦、美男美女の危険な恋が華を添えている。
もう1本の『戦争と一人の女』(公開中、R18+)は、坂口安吾の短編小説を映画化した官能文芸ドラマ。太平洋戦争末期から終戦後の東京で、時代に翻弄された男女の運命を描く。戦争に突き進む日本と国民に絶望した作家の野村(永瀬正敏)は、元娼婦の女(江口のりこ)と刹那的な同棲を始め、現実から逃避するように愛欲にふける。一方、中国戦線で片腕を失い帰還した大平(村上淳)は、戦場での行為がトラウマとなり妻と性交渉できなくなっていたが、ある日男たちに襲われている女性を見て激しく興奮していることに気づき……。
幼い頃に遊郭に売られ不感症になった女が、作家との性の行為を通じて「生きる力」を得ていく過程を、江口のりこが渾身の演技で体現。若松孝二監督の下で映画作りを学んだ脚本家の井上淳一が、本作で監督デビューを飾った。あえて観客に意識させるような明示的なズーミングなど、ドキュメンタリー作品にも似た映像の演出も相まって、遠い昭和の男女の営みを奇妙なリアルさで映し出す。あの戦争を風化させず、現代の日本人に「戦うこと」「生きること」の意味を考えてほしいという願いが伝わってくる。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『L.A. ギャング ストーリー』作品情報
<http://eiga.com/movie/57689/>
『戦争と一人の女』作品情報
<http://eiga.com/movie/77490/>
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