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ヒリヒリと痛みを伴う“性”と“暴力” 大人向けヒューマンストーリー『君と歩く世界』

kimitoaruku.jpg(C)Why Not Productions – Page 114 – France 2 Cinema –
Les Films du Fleuve – Lunanime

 春は別れと出会いの季節。当コーナーの4月第1回は、「喪失」と「再生」を描く邦画と洋画の最新作2本を取り上げよう(いずれも4月6日公開)。

 『桜、ふたたびの加奈子』は、新津きよみの小説を原作とし、スピリチュアルな要素を織り交ぜて描いたヒューマンドラマ。娘の加奈子を小学校入学式の日に事故で亡くした容子(広末涼子)は、自責の念に駆られて自殺を図るが、それを境に「加奈子が見える」と主張し、娘の世話をするようになる。夫の信樹(稲垣吾郎)は、かたくなな妻を立ち直らせたいと願いながらも、いら立ちを募らせていく。そんなある日、飼い犬に導かれるように出会った女子高生(福田麻由子)が出産間近と知った容子は、その赤ん坊が娘の生まれ変わりだと確信する。


 メガホンを取ったのは、デビュー作『飯と乙女』(11)でモスクワ国際映画祭最優秀アジア映画賞を受賞した栗村実監督。大切な人を失った時どう乗り越えるのかという主題に、魂や輪廻といった現代科学では説明のつかない要素をカウンターパート的に配して、ひとの命と生の意味を改めて問い直す稀有なタッチのドラマに仕上げた。象徴的に使われる桜や卵の映像、佐村河内守のエモーショナルな音楽により、重いテーマでありながら不思議な軽やかさと清々しさが残る。広末涼子は『秘密』(99)、『おくりびと』(08)など「死」に近い役どころで好演が多いのも興味深い傾向だ。本作のスピリチュアルな部分に関しては、豪田トモ監督のドキュメンタリー映画『うまれる』(10)を見るとひと味違う印象になるので、合わせて紹介しておきたい。

 2本目の『君と歩く世界』(R15+)は、オスカー女優マリオン・コティヤールが両脚を失った女性という難役に挑戦した衝撃的な人生と愛のドラマ。南仏アンティーブの観光名所マリンランドで働くシャチの調教師ステファニー(コティヤール)は、ショーの最中に起きた事故で両脚を失い、気遣う家族らにも心を閉ざしてしまう。退院したステファニーは、事故に遭う前に出会ったナイトクラブの用心棒アリ(マティアス・スーナールツ)に電話をかける。5歳の息子をひとりで育て、貧しい暮らしから抜け出そうと非合法の賭博ファイトに体を張るアリ。不器用だが真っ直ぐなアリの優しさに触れ、ステファニーは次第に生きる喜びを取り戻していく。

 『真夜中のピアニスト』(05)、『預言者』(09)の名匠ジャック・オーディアール監督が、カナダ出身の作家クレイグ・デビッドソンの短編集から「素手の非合法ファイトに挑む元格闘家」と「シャチに脚を引きちぎられる調教師」という2つのプロットを得て創作したストーリー。海でサメに片腕を奪われた少女がプロサーファーとして再起を賭ける『ソウル・サーファー』(12)や、障がい者と健常者の本音の交流がお互いに希望をもたらす『最強のふたり』(12)に通じるテーマを取り上げるが、これら2作品と違い、「性」と「暴力」をヒリヒリと痛みを伴うほど切実に描くことで大人向けの傑作に仕上がった。コティヤールが熱演するヒロインが、絶望の淵から再び世界と向き合い前へ進もうとする過程が、海、風、光の映像と音楽により効果的に描写される。現代社会のさまざまな問題も提示しながら、それでも生きること、愛することへの賛歌となっている本作が、人生に迷い悩む多くの観客に届くことを願いたい。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)

『桜、ふたたびの加奈子』作品情報
<http://eiga.com/movie/77649/>

『君と歩く世界』作品情報
<http://eiga.com/movie/77842/>

最終更新:2013/04/08 16:24
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