アカデミー賞2冠! タランティーノ節炸裂で抱腹絶倒『ジャンゴ 繋がれざる者』
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日本時間2月25日の第85回アカデミー賞授賞式で大いに注目を集めた有力候補作のうち、2作品が早速今週末、日本で劇場公開となる。大スターと巨匠が組んだハリウッド映画の醍醐味を堪能できるこれら2本を、賞の結果も含めて紹介していこう(いずれも3月1日公開)。
『ジャンゴ 繋がれざる者』(R15+指定)は、『イングロリアス・バスターズ』(09)のクエンティン・タランティーノ監督が脚本も手がけた異色のウエスタン。19世紀半ば南北戦争直前のアメリカ南部で、黒人奴隷のジャンゴ(ジェイミー・フォックス)は、賞金稼ぎのドイツ人シュルツ(クリストフ・ワルツ)に買われる。差別主義を嫌うシュルツはジャンゴに自由を与え、賞金稼ぎの相棒として鍛えていく。やがて2人は、ジャンゴと生き別れになった妻が残忍な領主として名高いキャンディ(レオナルド・ディカプリオ)の農園にいると知り、彼女を取り戻すため危険を承知で乗り込む。
マカロニ・ウエスタン(イタリア製西部劇)のフォーマットをベースにしながら、ハリウッド資本で南北戦争前夜の南部を舞台に製作。差別意識がはびこる時代と土地に、「ドイツ人」と「奴隷あがりの黒人」の賞金稼ぎコンビという異物を放り込む。さまざまなレベルで異物同士がぶつかり合うテイストを巧みに料理し、醸し出される違和感を比類無き魅力とシニカルな笑いに昇華させるのが、まさにタランティーノ流だ。ストーリー展開が一筋縄ではいかず、予定調和にならない変拍子が心地良い。飄々(ひょうひょう)としながらじわりと人間味がにじむキャラをワルツが好演。ディカプリオが悪党を嬉々として演じ、執事役サミュエル・ジャクソンの怪演も抱腹絶倒だ。「やり過ぎ感」もまたタランティーノの持ち味で、大げさな血糊の噴出や被弾した人物の吹っ飛び方もジョークにしてしまい、不謹慎と思いながらまんまと笑わされてしまう。今回のアカデミー賞で作品賞ほか5部門にノミネートされ、助演男優賞(ワルツ)と脚本賞を受賞した。バイオレンス描写と差別用語のため万人向きではないが、名優たちの熱演とストーリーテリングの巧みさを満喫できる、大人の娯楽大作だ。
もう1本の『フライト』は、デンゼル・ワシントン主演で、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズのロバート・ゼメキス監督が12年ぶりに手がけた実写作品。フロリダ州オーランドを飛び立った旅客機が、飛行中に原因不明のトラブルに見舞われ、高度3万フィートから急降下を始める。機長のウィトカー(ワシントン)は、とっさの判断で奇跡的な緊急着陸に成功して多くの人命を救い、一夜にして国民的英雄に。だがウィトカーの血液中からアルコールが検出されたことで、疑惑の目が向けられ、大騒動に発展していく。
『ポーラー・エクスプレス』(04)以降、もっぱら3DのCGアニメ作品に傾注していたゼメキス監督が、ようやく実写の世界に帰ってきた。ゼメキス監督といえばやはり視覚効果で、CMや予告編でも大勢が目にしている旅客機の低空背面飛行のリアルさは、映画館の大画面で「目撃」すると驚愕の迫力だ。序盤がディザスター映画風なのに対し、中盤からサスペンスに転調する流れも秀逸。事故調査の公聴会で張り詰めたやり取りが交わされるクライマックスでは、ワシントンの表情から目が離せなくなるはず。特異なキャラクターを主人公に据えているが、これは「自分が抱える問題といかに向き合うか」という誰もが共感できるテーマを扱った物語だ。今回のアカデミー賞では主演男優賞、脚本賞のノミネートのみに終わったが、ウィトカーと心を通わせるヒロイン役ケリー・ライリーの好演も挙げておきたい。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『ジャンゴ 繋がれざる者』作品情報
<http://eiga.com/movie/58197/>
『フライト』作品情報
<http://eiga.com/movie/57488/>
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