B787事故でGSユアサはスケープゴート?ソニー他はLi電池正念場で事業統合へ
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B787事故でGSユアサはスケープゴート?ソニー他はLi電池正念場で事業統合へ – Business Journal(2月27日)
最新鋭中型旅客機、米ボーイング787のバッテリーから発火する事故が相次いだ問題で、リチウムイオン電池が正念場を迎えた。B787のバッテリーは民間航空機として初めてリチウムイオン電池を採用している。リチウムイオン電池は発火性の高い材料を使っているため、航空機への搭載には慎重な姿勢が増えている。
LOTポーランド航空は、航空会社にとって最も重要な夏季にB787の運航再開を断念した。調査が難航、長期化すると判断してのことだ。
航空機製造大手、欧州エアバス・インダストリーは、開発中の新型機A350ではリチウムイオン電池を採用しない方針を明らかにした。A350のバッテリーには旧型機に用いられたニッケルカドミウム電池を使う。B787のトラブルの原因が解明されていないことから変更を決めた。エアバスではリチウムイオン電池の導入の中止について、「(A350の)顧客への引き渡し延期などの事態を避けるための安全対策」としている。
また、国連の国際民間航空機関(ICAO)は2月12日、B787に搭載されているようなリチウムイオン電池は、荷物として旅客機で輸送すべきではないとの判断を示した。ICAOは既に1月1日から、旅客機や貨物機に積むと自然発火の恐れがあるリチウムをベースにした電池を輸送する方法について、厳しい一般ガイドラインを導入していた。今回の勧告は一連の調査の結果が出るまでの暫定措置だ。
B787をめぐっては1月7日、米ボストン・ローガン国際空港に駐機中の日本航空機の補助動力装置で発火事故が起きたほか、1月16日には全日本空輸機が高松空港に緊急着陸した。原因の1つと考えられたのがリチウムイオン電池だ。GSユアサは仏タレスを通じ、B787にリチウムイオン電池を全量供給している。
事故を受け1月21日、国土交通省と米連邦航空局(FAA)はジーエス・ユアサ コーポレーション(京都市)に立ち入り検査に入った。これまでわかったのは、バッテリーに「熱暴走」と呼ばれる異常な過熱が発生していた事実だけだ。原因解明作業は長期化を避けられないだろう。
仏タレスは、GSユアサから納入されたリチウムイオン電池に独自の制御システムを組み込んでボーイングに納入している。電気系統を担当したのは仏タレスで補助動力装置は米プラット・アンド・ホイットニーが手掛けた。FAAは本来ならタレスに検査に入るべきところだが、いきなりGSユアサに疑惑の目を向けた。タレスはフランスを代表する航空宇宙・軍需関連企業だ。タレスに手を突っ込むと国際問題に発展し、フランスとの関係が悪化することを恐れた。その点、「GSユアサはスケープゴーとにしやすかった」と航空界ではみられている。
原因が解明されるまでには1年以上かかるとの見方が出ている。リチウムイオン電池メーカーには強烈な逆風だ。リチウムイオン電池は、携帯電話やデジタルカメラにも搭載されている身近な存在だが、潜在的にはプラスチック爆弾と同等のエネルギーを内包しているとされる。万に一つの事故があってはならない。安全性が確認されない限り、リチウムイオン電池が新たな飛行機やEV(電気自動車)に搭載されることはないだろう。
エコカー(環境対応車)時代の到来を迎え、最も脚光を浴びたのがリチウムイオン電池だった。自動車に搭載する電池は現在、ニッケル水素電池が主流だが、これからは燃費性能が高く、電気自動車(EV)が1回の充電で走行できる距離が伸びるリチウムイオン電池が主力になるとみられていた。リチウムイオン電池はEVの普及に欠かせないとして、自動車メーカーと電機各社がそれぞれ合弁会社を設立してエコカー用のリチウムイオン電池の開発に乗り出している。
ジーエス・ユアサ コーポレーションは2004年に旧日本電池と旧ユアサコーポーレーションが経営統合して誕生した純粋持ち株会社。傘下の事業会社がGSユアサだ。自動車用と産業用のリチウムイオン電池に強みを持ち、「新しい事業の柱」と位置付けている。09年夏に発売された三菱自動車の電気自動車アイ・ミーブにも、リチウムイオン電池を供給してきた。だが、電気自動車は普及しなかった。
GSユアサが2月5日に発表した12年4~12月期の連結決算は、売上高が前年同期比4.6%減の1958億円、営業利益は同27.6%減の64億円だった。三菱自動車の電気自動車向けに供給するリチウムイオン電池が伸び悩み、計画を下回ったことから減収減益となった。B787に供給するリチウムイオン電池について、「航空機向けの電池の売上高は数億円台の前半」と述べ、連結業績に与える影響は今のところ軽微との見方を示した。
電気自動車やプラグインハイブリッド車(PHV)などのエコカーに最適といわれながら、自動車にリチウムイオン電池の採用が進まなかったのは、安全性に問題があったからだ。中国では電池・電気自動車のベンチャー企業、比亜迪(BYD)が生産した電気自動車E6のタクシーが12年5月、追突事故に巻き込まれ、運転手と乗客2名が焼死した。追突の衝撃でリチウムイオン電池が液漏れを起こし、炎上した可能性が高いとされた。B787の事故は、リチウムイオン電池の安全性の問題を突きつけた。車への本格導入の可能性は、さらに遠のくことなる。
リチウムイオン電池の再編をめぐる動きが出てきた。政府系投資ファンドの産業革新機構が、ソニーの携帯電話やパソコン向けの小型電池子会社、ソニーエナジーと、日産自動車とNEC が共同で立ち上げた電気自動車向け合弁会社、オートモーティブエナジーサプライのリチウム電池事業の統合交渉に乗り出した。具体的には、オートモーティブがソニーエナジーの株式の大半を取得した上で革新機構がオートモーティブに出資するという流れだ。
リチウムイオン電池は、ソニーが91年に世界で初めて商品化した国産技術だ。06年にノートパソコンの発火事故や異常過熱が相次ぎ、ソニーは大規模な回収に追い込まれた。この事故がもとで、韓国のサムスングループに世界首位の座を奪われた。ソニーは自動車用リチウムイオン電池への進出が遅れた。
ソニーは経営再建の一環として、リチウム電池事業を台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業などに売却することを検討してきた。革新機構が国内企業同士での再編を進めるのは、リチウムイオン電池の技術の海外流出を防ぐ狙いがある。官が電池再編を主導しても、安全性の問題にメドがつかなければ、リチウムイオン電池を搭載する自動車メーカーは増えない。リチウムイオン電池は、正念場に立たされている。
(文=編集部)
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