“当たり前の世界”を見つめ直す、『泣くな、はらちゃん』の無垢な問いかけ
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「テレビはつまらない」という妄信を一刀両断! テレビウォッチャー・てれびのスキマが、今見るべき本当に面白いテレビ番組をご紹介。
3本しか弦がなかったギターの絵に弦を3本描き足し、そのコマに音符を描くと世界にメロディが生まれ、「はらちゃん」は歌い出した。それは新たな世界が生まれた瞬間だった。『泣くな、はらちゃん』(日本テレビ系)は越前さんが日記代わりに描く漫画の世界の住民だったはらちゃんが、彼女の住む(ドラマ上の)現実の世界に実体化して飛び出し、暗く淀んだ自分たちの世界を、彼らにとって創造主で「神様」である越前さんを幸せにすることで変えようと奮闘する物語だ。
脚本を担当するのは岡田惠和。プロデューサーの河野英裕と組むのは、同枠で放送された野心的問題作『銭ゲバ』以来。『泣くな、はらちゃん』は河野Pがこれまで手がけてきた「人間でないものから人間を見て、人間ってなんだろうということを考えてきた」という『Q10』や、『妖怪人間ベム』の流れを汲む作品でもある。はらちゃんを演じるのは、漫画的バカ演技をしたら右に出る者はいない長瀬智也。そしてヒロイン越前さんには、麻生久美子という抜群で絶妙なキャスティングだ。
かまぼこ工場で働く越前さんは、仕事で意地悪をされても「私はね、誰も傷つけたくないし、干渉したりもしないんですよ。人はそれぞれ皆違うわけですから。だからね、私のことも放っておいてほしいわけですよ。私は誰も攻撃しない。傷つけない。だから私にもそうしてほしい」というような自己主張すらできない、地味で自己評価が異常に低い女性。彼女が描いている漫画の主人公がはらちゃんである。越前さんは、そんなはらちゃんに漫画の中で自分の不満ややるせなさを代弁して語らせ、現実世界の八つ当たりをしている。
始まりは、彼女の弟ひろし(菅田将暉)のサイテーな行動だった。彼は姉の部屋へ金目のものを物色しようと忍び込み、彼女が描く漫画のノートを見つけ、それを外に投げ捨ててしまう。すると漫画の世界が激しく揺れ、そこに裂け目ができた。それが現実世界への入り口だった。そうやってノートを激しく振ると、漫画の世界の住民が現実の世界に現れ、また誰かがノートを開くと漫画の世界に戻っていくのだ。
現実世界に放り出されたはらちゃんは、田中(丸山隆平)に遭遇する。彼は越前さんと同じかまぼこ工場で働き、彼女を「神様」と崇め、思いを寄せていた。
はらちゃんは田中の案内で越前さんに出会うと、彼女に訴える。
「あなたが幸せでないと、我々の世界は曇ったままなんです。どうか幸せになってください。そのために頑張って戦ってください。お願いです、神様、世界を変えてください。あなたが笑えば世界が輝くんです!」
彼は、越前さんをライバル視する清美(忽那汐里)、パートリーダーで“何か”を知っていそうな百合子(薬師丸ひろ子)、いい加減だけど憎めない工場長・玉田(光石研)、そして越前さんの母(白石加代子)らに出会い、そこで見るものひとつひとつに驚き「これはなんですか?」と“当たり前”の質問を繰り返す。はらちゃんにとって、現実世界は何もかもが新鮮。なにしろ、漫画の世界は、わずか5人だけがいる狭い居酒屋がすべて。だから、分からないことだらけなのだ。
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