アルジェリア人質事件 朝日の氏名公表はマスコミタブーを犯した!?
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アルジェリア人質事件 朝日の氏名公表はマスコミタブーを犯した!? – Business Journal(2月18日)
民主党への期待の裏返しと、自民党への長らくの不信感……離党するあまたの議員や、乱立する政党など、複雑すぎる昨今の日本の政治。元国会新聞編集次長の宇田川敬介氏が、マスコミ報道という観点から、異論・反論交えて解説するーー。
アルジェリア天然ガス施設人質事件において、イスラム教原理主義者武装グループによる人的被害が出た。この犠牲者の氏名を公表するのかしないのか、をめぐり論争が起きたが、ここにもマスコミを正しく見る上で重要なポイントがある。
まず、少し前の話になってしまったので、事件の概要を簡単に振り返っておこう。
1月に、アルジェリアの天然ガス施設でイスラム教原理主義者武装グループによる人質事件が発生した。人質を連れ出そうとする武装グループと、それを阻止しようとするアルジェリア軍との間で銃撃戦が発生し、両者による銃撃戦の結果、犠牲者が出てしまった。その中で、現地の天然ガス施設開発を請け負っていた日本の企業、株式会社日揮からは17人の人質のうち10名が犠牲となった。もちろん、日本人だけでなく、フランスやイギリス、アメリカ、フィリピンなど多くの国の人々が犠牲となった。
この事件に際して、対策本部を設置した日本の首相官邸および株式会社日揮は、犠牲者および救出された日本人の氏名の公開を行わないように要請していた。これに対して内閣記者会およびテレビ朝日、そして朝日新聞は、氏名公開に踏み切ったのである。これには、遺族から非常に強い抗議が出てきて話題になった。
こうした事件が発生した場合マスコミは、犠牲者の遺族が犠牲者を本人と確認するまで、名前を公表しないのが「通例」である。
あえて通例と書いたのは、基本的にこの部分に関して、法律的なルールが存在しない。マスコミと政府間で申し合わせたような文書も存在しないし、ましてや拘束力がある法律は存在しない。
とはいえ、海外での人命に関わる事件だと、警察や捜査機関関係者などは、マスコミとの報道協定を用いて、事件の情報を強く制限することがある。一方で、政治記者が集まる内閣記者クラブでは、そうした拘束力が働くことがまったくないのである。だから、こうした国外での事件が起きた際に、情報漏洩の元は、内閣記者会もしくは、防衛などを含む官僚の記者会であるということは注目してほしいところだ。
果たして、朝日資本の報道機関2社による、犠牲者の公開はよかったのか、それとも悪かったのか。
●自然災害や飛行機事故ならOK 氏名公開の境界線
ざっくりと考えると、朝日新聞とテレビ朝日は、事件解決のために何をしなければならないのか? 国民はどのような情報を知らなければならないのか? ということがわかっておらず、行き過ぎた「知る権利」を行使した結果であると断罪できる。その上、いうなればその根底には、「スクープ」を目指すという功名心がそのようにさせたのは誰の目にも明らかだ。
マスコミが行方不明者の発表を行うときには、まず犠牲になった原因が自然災害や飛行機事故の場合に、公表されることがある。広範囲で、なおかつ多数の人の生死が不明である場合、また、そこにいるはずの人(飛行機事故なら搭乗予定者)の遺体が見つからない場合は、「行方不明者」として氏名が公表されることが多い。
こうした事例の場合、マスコミが「行方不明者」の氏名を公表することで、捜索の役に立つ場合も少なくないから氏名公表には価値があるといえる。行方不明者の氏名を公表することで、たまたま、その事件に遭遇することなく他の場所で生存が確認されるような場合もある。例えば01年のアメリカ同時多発テロ事件(9・11事件)のときも、たまたま、その日に限って別な場所に出張していた人が行方不明者として発表され、自ら名乗り出たという例もある。特に航空機の事故などの場合は、切符を買って乗り遅れたなどの場合があるし、85年8月の御巣鷹山日航機墜落事故などではそのような「運の良い人」が話題になったこともある。報道機関による行方不明者の氏名の公表が、重大事件での捜索に役に立ち、また、行方不明者の命を救うという目的に適う場合があるのだ。
一方、戦争や拉致事件など「人為的故意によって犠牲になった人」の場合は、そのような捜索の必要がない。捜索のことを考えた氏名公表の基準にする必要はないのである。その上、遺族が遺体を確認する前から香典やお悔やみの電報などが届けられては、遺族に対して残酷すぎるであろう。
そもそも「テロ事件で誰が犠牲になったのか」を報道することは、国民の「知る権利」を満たすことなのか?
今回の人質事件に関して、その事件の真相を知ることは重要かもしれない。もちろん、グローバリズムが華やかなりし昨今において、いまだにテロの危険がある海外の情報は、非常に大きな関心事であるだろう。親族が海外に行ってる人たちにとっても同様である。
また、こうした事件の全容を把握しておくことで、再発防止と次の安全対策として備えることができる。こうした前例に対する研究があってこそ、旅行や経済における日本人の海外活動がより自由になるのだ。
だが、逆に言えば、それ以上の情報や、それらの目的に明らかに合致しない部分の情報は、ある意味「興味」でしかなく、また、「野次馬根性」でしかないのだ。こうした事例はやはり断罪されうるべきだと言えるだろう
さらに、そのような対応が一般の罪のない一部の国民を、大多数の国民の「興味の目」の犠牲者にするのは、これが初めてではない。松本サリン事件のように、根拠のない報道で、社会的に罪もない人を一時的に殺人犯に仕立てあげた例もある。
今回の事件は、マスコミがわかりやすく「知る権利」を「濫用した」例であるといえる。そのために、アルジェリア人質事件における、朝日新聞そのほかが行った人質の実名報道は、単純に「スクープ」を狙ったというだけでなく、その裏にある、報道機関の責任感のなさが露呈した結果であろうといえるだろう。
(文=宇田川敬介)
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