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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.198

ハリウッドの頑固オヤジがたどり着いた好々爺の境地! イーストウッド、4年ぶりの主演作『人生の特等席』

jinseinotokutoseki1.jpg球団から引退を勧告されたガス(クリント・イーストウッド)にとって
最後のスカウト旅行。ひとり娘のミッキー(エイミー・アダムス)が同行する。

 御年82歳となるクリント・イーストウッドの最新主演作『人生の特等席』を観ると、クリント・イーストウッド監督作がどれだけ凄いかということを改めて思い知らされる。ハリウッドで長年にわたって、決して死なないマッチョヒーローを演じ続けてきたイーストウッドだが、“俳優引退作”と銘打った『グラン・トリノ』(08)で壮絶な幕引きを済ませた。監督兼俳優として、やるべきことはやり尽くした。だが、それでも人生は続く。主演と監督の2役を兼ねるハードな役割からは降りたものの、徹底した健康管理のお陰で体はまだまだ元気。イーストウッドの個人スタジオ「マルパソ」でずっと裏方として支えてきてくれたロバート・ロレンツが監督デビューするのに丁度いい脚本があるから、ここはひと肌脱ごうじゃないか。かくしてイーストウッドが唯一の弟子として認めているロバート・ロレンツの監督デビュー作『人生の特等席』が製作された。人生のゴールが見えてきた老スカウトマンが次世代のメジャーリーガーを発掘するため、疎遠になっていた娘を伴って旅をする。万人が「いいね」とうなずきたくなる感動的な企画となっている。

jinseinotokutoseki2.jpg有能な弁護士として働くミッキーだが、幼い頃
に親戚に預けられたことを恨んでいた。
我が道をゆく父親へミッキーの怒りが爆発する。

 アトランタでひとり暮らしを続けるガス(クリント・イーストウッド)は、メジャーリーグのベテランスカウトマン。有望新人を次々と発掘してきただけでなく、自分がスカウトした選手がスランプに陥ると相談に乗り、怪我で実力が発揮できないまま引退した選手のことも思い遣る人情派だ。球団の若い幹部はコンピュータを使ったデータ分析に余念がないが、ガスは常に現場に足を運ぶことでドラフト候補となっている若者がプロの水に合うかどうかを見極めている。頑固ひと筋で通してきたガスだが、さすがに寄せる年齢の波は押し返せない。最近はオシッコの切れが悪いだけでなく、視力に支障が出てきた。周囲には隠しているが、古い付き合いの球団職員のピート(ジョン・グッドマン)はガスの体調が思わしくないことを察知している。ピートはガスのひとり娘・ミッキー(エイミー・アダムス)に連絡し、ガスの様子を見てほしいと頼む。母親を幼い頃に亡くしたミッキーにとって、ガスは唯一の肉親。弁護士として超多忙な毎日を過ごしていたが、視力の衰えた父親を放っておくわけにもいかない。携帯電話とノートパソコンを抱えて、ガスの車の運転手を務めることに。ドラフト会議までもうすぐ。深まりゆく秋のノース・カロライナの地方球場を、ガスとミッキー親子はぎくしゃくしながらも巡っていく。

 枯れた男の味わいを見せるイーストウッド主演のロードムービーということで、決してハズれのない内容であることが予測できる。旅の相方を務めるのは、『ザ・ファイター』(10)での助演ぶりが印象的だったエイミー・アダムス。『ミリオンダラー・ベイビー』(04)のヒラリー・スワンク、『チェンジリング』(08)のアンジェリーナ・ジョリーと同じく、骨太タイプな女性だ。自分が決めたルールにこだわり続ける頑固オヤジと、仕事と結婚のどちらを優先するのかの選択を迫られる年齢に差し掛かった30代の娘とのドライブ旅行。旅を続ける中で、お互いの胸の奥に隠していた心情をぶつけ合い、親子のつながりを確かめ合う。地方のひなびた野球場、ホットドッグにビール、生バンドの演奏付き酒場、自然豊かな田舎のロケーション……。タイムスリップしたかのような、古き善き時代の米国の光景がスクリーンに広がる。選手たちが引き揚げていったグランドで、ガスとミッキーが数十年ぶりに2人きりでゲームに興じるシーンは文句なしに美しい。『フィールド・オブ・ドリームス』(90)のように野球が親子の溝を埋めてくれる。

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