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日刊サイゾー トップ > その他  > ブルームバーグ ノルマ地獄の末にクビ斬り

ブルームバーグ 社員教育を偽装したノルマで追い詰めクビ斬り

 サイゾー新ニュースサイト「Business Journal」の中から、ユーザーの反響の大きかった記事をピックアップしてお届けしちゃいます!

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ブルームバーグ 社員教育を偽装したノルマで追い詰めクビ斬り – Business Journal(11月9日)

post_979.jpg 原告一審勝訴でどうなる?(「bloomberg HP」より)

ーーニュースサイト「マイニュースジャパン」を中心に、企業のパワハラ問題や労働争議を追いかけ、常に弱者の立場にたった取材を続けるジャーナリストの佐々木奎一。独自のルートで取材した、企業裁判のか中にある人々の声を世間に届ける!

 元大手通信社のY氏(現50歳)は、05年11月から米通信社ブルームバーグの東京支局の記者職に中途採用で入社した。その後、株式相場の記者職、陸海空の運輸業界の記者業を経て、09年2月から遊軍の記者として、さまざまな業界の記事を書いていた。その頃は仕事になんの支障もなく、順調だったという。

 しかし09年4月、08年に起こったリーマンショックを背景に、会社はノルマ制を導入した。Y氏に課せられたノルマは、「独自記事」を年間約20本、「ベスト・オブ・ザ・ウィーク」記事が年間3本だった。

「独自記事」とは、企業や官庁の幹部へのインタビュー、業界の動向などを分析した、独自の視点の手の込んだ記事を指す。「ベスト・オブ・ザ・ウィーク」とは、同社の配信した記事のうち、特によい記事として世界各地の支局から週に数十本リストアップしれたもので、編集局長賞に相当する。

 設定されたノルマは何とかこなせる範囲のものだった。しかし、会社からリストラ候補の標的にされたY氏は同年9月、突然、ノルマを倍増された挙句、「Yさんは独自が少ない。もっと独自を書いてください」と命じられた。

 さらに2週間後Y氏は、会議室に呼び出された。中に入ると、東京支局の最高責任者からナンバースリーまでの上役3名と、直属の上司A、人事課B氏がズラリと並んでいた。

 その席でY氏に1枚の紙が差し出された。それは「PIP(Performance Improvement Plan)」、直訳すると、「成績改善計画」。これは表向きは、成績不振の社員に課題を与えて能力を向上させることを目的としているが、実態は、社員教育を偽装したクビ斬り計画といえる代物。

 紙には、こう書いてあった。

「ミーティングでお伝えしたように、独自記事及びベスト記事(ベスト・オブ・ザ・ウィーク)の出稿が十分でないことを懸念しています。これらを改善するため、以下のアクションプランに取り組んでください。今後このプランに基づき、あなたのパフォーマンスをモニターし、約1カ月後にフィードバックを行います」

 さらに、その1カ月のノルマとしては

「今後は1週間に1本、独自記事を配信してください」
「独自記事のうち1カ月に1本は、ベスト・オブ・ザ・ウィークに提出できる程度の記事を求めます」

 などの内容が記載されていた。独自記事が週1回ということは、4月当初に比べ2.6倍。ベスト・オブ・ザ・ウィークに至っては、4倍に激増している。

 悪夢のような課徴ノルマの通達から約1カ月後、Y氏は再び会議室に呼び出された。Y氏はこの時までに、独自記事のノルマの本数が、一本足りなかった。上司は「もう一回、パフォーマンス・プランをやれ」といい、紙を差し出した。文面の最後には、こう書いてあった。

「期待されるパフォーマンス・レベルやそのほかの会社規則もしくは手続きに従わない場合、解雇を含むさらなる措置を受ける可能性があることを必ずご理解ください」

 それからY氏は、馬車馬のように記事を書いた。約1カ月後、Y氏はこの時点で独自記事のノルマ数をクリアしていた。ただ、ベスト・オブ・ザ・ウィークがなかった。上司たちは、もう一度、プログラムを受けるように言う。そして、前回同様、「解雇を含むさらなる措置」の文言が記された文書にサインさせられた。

 そもそもベスト・オブ・ザ・ウィークとは、東京支局の幹部がその週のナンバーワン記事を恣意的に選び、ニューヨーク本社に上げて選ばれるシステムなので、幹部たちがこいつの書いた記事は上げたくないと思えば、どんなに良い記事でも採用されない。

●裁判所も認めるブルームバーグの無理難題

 このような恣意的なノルマであるにもかかわらず、1カ月後、会議室に呼ばれたY氏は、直属の上司A氏からこう言われた。

「ベスト・オブ・ザ・ウィークがなかった」

 そして、「我々は、もうあなたをこれ以上、チームにおいておくつもりはありません。ほかのチームへの移動も考えましたが、おいておける場所はありませんでした。だから、あとのことは、ここにいる人事の人と話して下さい」と言われた。

 そう言った後、幹部4人が整列して会議室から出て行った。正味3分の出来事だった。

 その後、人事B氏は慇懃無礼に、「もう仕事をするための社内システムも止めてあります。もうYさんは仕事ができませんので、この場で玄関に行かれてお帰り下さい。社員証もお返しください」と言い放ち、Y氏に自宅待機を命じた。その後Y氏は、10年8月に解雇された。

 これに対してY氏は11年3月、ブルームバーグを相手取り、東京地裁に提訴。Y氏の訴えた内容は、「地位確認」と、解雇された10年9月以降の賃金として「毎月67万5千円の支払い」の2点だ。

 Y氏の訴えに対し、会社側は、能力不足だったから解雇した、と主張した。具体的には「記者として求められるスピードで記事を配信できない」「配信記事数が少ない」「質の高い独自記事を配信できないという致命的な問題があり、会社側は繰り返し改善を求めてきたが、Y氏は改善する努力すらせず、改善の見込みがなかった」といった主張をした。

 その後結審を経て、12年10月5日に判決。東京地裁民事36部の光岡弘志裁判長は、こう述べた。

「原告が、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する」
「被告は、原告に対し、平成22年9月から毎月25日限り、67万5000円を支払うこと」

 結果的にY氏の全面勝訴判決である。判決文を読むと、同裁判長は、Y氏が能力不足だったという会社の主張について、「客観的合理性があるとはいえない」と、この日だけで実に5度に渡りダメ出しを出していた。

 その後、ブルームバーグは控訴した。一審判決についての見解を聞くと、同社は「判決内容を詳細に検討した上で対応を考えております。現時点で、これ以上のコメントは差し控えさせていただきたいと思います」というのみだった。

 PIPによるノルマ地獄の末の解雇は、ブルームバーグ以外の会社でも横行しているはずである。会社から標的にされている社員は、是非、今回の判決を参考にしてほしい。
(文=佐々木奎一/ジャーナリスト)

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最終更新:2012/11/11 07:00
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