“絶対的価値”を求める男たちの翔んでもロマン! 井筒監督の犯罪サスペンス『黄金を抱いて翔べ』
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銀行本店から金塊を奪うことに成功すれば、それは日本経済を揺るがす大事件だ。
初めに金塊ありき。銀行を襲撃する男たち6人を束ねる北川は高らかにそう宣言する。ヨハネの福音書にある「初めに言葉ありき」をもじったものだ。北川は続ける。「金塊は我々と共にありき。我々の結束は肉の欲によらず、人の欲によらず、ただ金塊によって生まれしものなり」。6人の男たちはメガバンクで厳重に保管されている240億円相当の金塊を強奪しようと企んでいた。直木賞作家・高村薫の処女小説を妻夫木聡、浅野忠信、西田敏行らオールスターキャストで映画化した『黄金を抱いて翔べ』は、男臭くてゴツゴツした井筒和幸監督らしい作品だ。男たちは銀行強盗という犯罪に手を染めるわけだが、映画の世界ではそれは違った意味を持つ。絶対に不可能なことに挑む冒険者として彼らは登場する。男たちが欲しいのは、日本銀行が発行した債券である紙幣ではなく、あくまでも純金なのだ。永遠不変の価値を持つ絶対的な存在を手に入れようと男たちは立ち上がる。リスクを避けることが最優先される現代社会において、ロマンのために殉じて構わないという大ロマンチストたちの物語だ。
井筒監督の出世作『ガキ帝国』(81)や『岸和田少年愚連隊』(96)と同じく大阪が舞台。『パッチギ!』(05)は京都が舞台だが、これも関西圏ということでひと括りにしてしまおう。これらの作品はどれも閉塞的状況の中で突破口を求めてもがき苦しむ若者たちのドラマだ。突破口がなかなか見つからず、男たちはドツキ合う。そうするしかエネルギーの捌け口がなかった。『黄金を抱いて翔べ』ではそのエネルギーの捌け口が銀行襲撃へと向かう。高村薫は『黄金を抱いて翔べ』の中で、実に大胆な銀行襲撃プランを考え出した。銀行の地下に保管された金塊を盗み出すために、男たちは二手に別れて、まず中之島変電所をド派手に爆破してしまう。大阪の都心部一帯を停電させ、警察の目を引きつける陽動作戦だ。続いてケーブル回線が通る地下共同溝をこれもダイナマイトで爆破。これによって銀行の電話回線や警備会社と繋がった通信回線もすべて遮断されてしまう。そして銀行の裏口で待機していた実行部隊は非常用電力で動くエレベーターに乗って堂々と地下金庫へ向かい、破壊力抜群なプラスティック爆弾で金庫の扉ごと吹き飛ばしてしまおうというもの。何とも豪快な襲撃プランだ。
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