緊張感とバカバカしさが入り乱れ! 本当にあった奇想天外な救出作戦『アルゴ』
#映画
今週は、万人向きの映画ではないかもしれないが、各ジャンルの面白さや可能性を改めて示し、さらにはジャンルをクロスオーバーした表現で楽しませてくれる意欲作3本を紹介したい。
10月26日に封切られた『アルゴ』は、ベン・アフレックが監督・主演を務め、イランで実際に起きたアメリカ大使館人質事件の救出作戦を描くサスペンスドラマだ。1979年11月、イラン革命が激化するテヘランで過激派がアメリカ大使館を占拠。大使館員52人が人質になるが、混乱のなか6人が脱出し、カナダ大使の私邸に身を潜める。CIAで人質救出を専門とするトニー(アフレック)は、6人を国外へ脱出させるため前例のない大胆な作戦を立案。それは、「アルゴ」という架空のSF映画を企画し、6人を撮影スタッフに偽装して出国させるというものだった……。
単身イランに乗り込んだトニーと6人が体験する「発覚すれば即拘束・処刑」という緊迫感と、『スター・ウォーズ』を元ネタに架空の映画製作を立ち上げてロケハンチームを装うというバカバカしさのギャップがたまらない。CIAをはじめとする諸外国の情報部の秘密工作といえば、機密情報を盗み出したり要人を暗殺したりといった印象があるが、こんな奇想天外なミッションも敢行していたという事実に驚かされるはず。ベン・アフレックは『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(07)、『ザ・タウン』(10)に続く監督作3作目で、観客を引き込む演出の腕を着実に上げている。
10月27日公開の『危険なメソッド』は、『スキャナーズ』(81)、『裸のランチ』(91)の鬼才デビッド・クローネンバーグが、精神分析学黎明期の2大巨頭フロイトおよびユングと美しい女性患者の関係を描く歴史心理ドラマ。若き心理学者ユング(マイケル・ファスベンダー)は、激しいヒステリー症状を示すロシア人女性ザビーナ(キーラ・ナイトレイ)の担当になる。「談話療法」という画期的な治療法を提唱する精神分析学者フロイト(ビゴ・モーテンセン)のアドバイスを得ながら、ザビーナの治療と研究を進めるユングだったが、あるとき彼女と一線を越え男女の仲になってしまう。
クローネンバーグといえば、人気を確立していった80年代から90年代にかけてはSF、特殊メイクを駆使した異形の存在や人体破壊、特殊な性衝動といったB級要素と、アーティスティックな作家性が共存するマニア好みの映画が多かった。だが、モーテンセンと組んだ『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(05)、『イースタン・プロミス』(07)など近年の映画は比較的“上品”な作風になっており、本作もその路線上にある。ファスベンダーとモーテンセンの格調高い演技をたっぷり堪能できるが、美しいキーラ・ナイトレイが序盤で見せる、下あごを思いっきり突き出して表情を歪める“変顔”も強烈。ザビーナの特殊な性的嗜好が暴かれるシーンでの熱演もあっぱれだ。
11月3日公開の『トールマン』は、フレンチホラーの新鋭パスカル・ロジェ監督が、ジェシカ・ビール主演で描くサスペンスホラー。かつての炭鉱の町コールドロックでは、鉱山が閉鎖され急速に寂れていくなか、幼い子どもたちの失踪が相次ぐ。正体不明の誘拐犯は「トールマン」と呼ばれ、町の住民から恐れられていた。診療所で働く看護師のジェニー(ビール)は、ある夜自宅から何者かに連れさられた子どもを追い、傷を負いながらも町外れのダイナーにたどり着くが……。
前作『マーターズ』(09)の超絶激痛シーンで、一躍ホラーファンやSM愛好家の注目を集めたロジェ監督。今作でその手のゴア描写を期待すると肩すかしを食うが、登場人物の印象が二転三転するストーリーは宣伝文句に偽りなしの衝撃だ。前作と合わせて見ると、ロジェ監督にとって表現の過激さやどんでん返しの筋立てはあくまでも手段で、社会のより大きな問題に対峙することを表現しているように思える。テーマや描写で物議を醸すのも、困難な使命を自ら任じる監督がメッセージを広く伝えるための戦略なのかもしれない。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『アルゴ』作品情報
<http://eiga.com/movie/57493/>
『危険なメソッド』作品情報
<http://eiga.com/movie/57539/>
『トールマン』作品情報
<http://eiga.com/movie/77538/>
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