AKB48は日本製造業の継承者と言わざるを得ない理由
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AKB48は日本製造業の継承者と言わざるを得ない理由 – Business Journal(6月27日)
(撮影=後藤秀二)
6月に実施された第4回AKB48選抜総選挙の総投票総数は、138万票にいたった。
2009年の第1回総選挙が5万票だったのにくらべて、わずかの期間で27倍ほどに拡大したことになる。みんながテレビ中継に釘付けになったこのイベントは、たしかに国民的イベントといえるほどに成長した。また、先日発表された12年上半期のオリコンチャートは、AKB48(以下、AKB)とその姉妹グループで塗りつくされた。
ヒットの決定的要因
このモンスターグループのヒット要因はなんだったのか?
これまで、AKBの躍進理由がさまざまな観点から説明されてきた。もちろん、楽曲の良さ、メンバー一人ひとりのキャラ、「会いに行けるアイドル」というコンセプト抜きには語れない。しかし、説明される要因のどれもが、決定的なものではない。もし何かひとつの要因だけによるものであれば、他のアイドルグループが真似して、あっというまに人気を博しているはずだ。
05年に結成され、06年からライブを本格化したAKBだったが、ときにメンバーの数のほうが観客よりも多いこともあった。そんなときにもプロデューサー・秋元康さんは、自ら会場に出向き、ファンの一人ひとりに、よりよくするための改善点を訊いて回った。また、AKBのスタッフは、ファンが集うファミリーレストランに出かけて、既存のファンを少しでも楽しませることのできる方法論を模索していった。
カイゼン、顧客志向の徹底
もちろんクレームも入ってくる。それをおなじく一つひとつ解消していった。
秋元さんの”発明”は、「カイゼン」「顧客志向」を製造業だけではなく、アイドル生産にも応用したことだった、と私は思う。日本製造業の代表選手である自動車メーカーは、生産システムや商品を一つひとつ顧客に合わせて変化させていった。私が自動車メーカーに勤務していた経験からいえば、お客のどんな小さな苦情もすべて解消するように検討する。使い勝手、乗り心地、デザイン、そして販売員の態度にいたるまで、次世代商品の開発や店舗運営に反映していく。その「カイゼン」「顧客志向」の徹底ぶりは、異常とも思えるほどだ。
かつて日本の製造業が優れていた理由は、何か特定のプロセスにあったのではない。それぞれのプロセスが他国とくらべて1〜2%ずつだけでも優れていた。それが積み重なることで、大いなる優位性につながっていったのだ。
メンバー一人ひとりの顧客志向も凄い。指原莉乃さんはファンを楽しませるために、一日でブログを100回も更新して3500万ビューを達成した。他のメンバーもGoogle+では過剰なほどに書き込んでいる。ライブにいけば、彼女たちの一生懸命さに、多くのファンが満足して帰宅する。握手会では手が腫れても頑張り続ける。ファンを差し置いて特定男性と恋愛することは禁止だ。
ケイレツ発注=恋愛禁止
ちなみに、日本製造業が採用した「ケイレツ発注」とは、ケイレツ企業に自社グループだけへの愛を誓わせるものだった。「恋愛禁止」「グループへの忠誠」「ファンこそ恋人」というAKBは、かつての日本型製造業にそっくりではないか。
すべてはファンのため。「顧客志向」が貫徹されている。
お客の声を優先することは、徹底した無思想に支えられている。自分たちの考えではなく、お客こそが正しいとする無思想。少人数のお客にだけ売れるこだわりではなく、多数に売れることこそが正義なのだ。
「ヒットはすべて正しい」のである。
その意味で、AKB総選挙は、センターを人気投票だけで選抜する、徹底した、そして優れた無思想システムだった。
自動車は歴史を経て、単なる移動手段から嗜好品になった。機能を追い求めるだけではダメで、移ろいやすい消費者の心をつかむ必要がある。そして、それは自動車だけではない。他の商品も同じだ。
かつてのソニーやパナソニックやホンダは、創業者がミカン箱の上に立ち、自社を世界的な企業にしてみせると社員の前でスピーチし、苦労と努力を重ねながら夢を実現させていった、ある種の「物語」をもっている。彼ら創業者(井深大氏・盛田昭夫氏、松下幸之助氏、本田宗一郎氏)は、自社商品以上に有名だ。商品が嗜好品になるにつれ、お客が商品を選ぶ際に重視するのは、この「物語」になっていく。
人生=物語の販売
おそらく、AKB総選挙を見て泣いた人がいるとすれば、彼女たち一人ひとりの「物語」に共感したからだろう。人びとの関心は、企業をつくり世界に羽ばたいた起業家物語から、アイドルの立身出世物語に移ってきた。AKBは楽曲とライブを売りにしているのではない。メンバーの人生を販売しているのである。
ソニー創業者の井深大氏・盛田昭夫氏のスピーチに感銘を受けたのが、アップルのスティーブ・ジョブズで、彼はプレゼンの名手となった。本場日本では、AKB48がスピーチの巧みさを受け継いだ。AKB総選挙を見てもわかるとおり、彼女たち並みにスピーチがうまいひとたちを探すほうが難しい。私がAKBを「日本製造業の正当な後継者」と呼ぶのは、こういった類似性があるからだ。
え? そんなにAKBが製造業に似ているんなら、日本的製造業のもう一つの特徴である「年功序列」はどうかって?
調べてみた。以下は、第3回AKB総選挙での結果だ。
・メディア選抜(上位12人):平均年齢20.0歳
・選抜メンバー(上位21人):平均年齢19.5歳
・アンダーガールズ(22~40位):平均年齢18.4歳
マジかよ……。製造業とおなじく、「年功序列」なのか。
次に第4回AKB総選挙での結果だ。
・選抜メンバー(上位16人):平均年齢20.5歳
・アンダーガールズ(17~32位):平均年齢19.9歳
・ネクストガールズ(33~48位):平均年齢18.6歳
・フューチャーガールズ(49~64位):平均年齢18.4歳
マジかよ……。これも「年功序列」だ(篠田麻里子様が平均年齢を上げていると疑うひともいるだろうが、麻里子様を除いても、選抜メンバーの平均年齢は20.1歳だ)。
もちろんこの結果は、何年にもわたってファンに尽力してきたメンバーが支持されているとするなら、当然の結果にすぎない。しかし、カイゼンを重ねて結果を出すことは、製造業の手法にそっくりではないか。やはりここで私は、AKBと製造業の類似性について心奪われる。
え? あれだけAKBは人気なのに、各メンバーの年収が低いという噂があるって?
だから、それも親近感が湧くじゃないか。
製造業の従業員は、給料があれだけ安いんだから。
(文=坂口孝則)
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